巴旦杏はたんきやう)” の例文
片手に二人分の巴旦杏はたんきやうをかかへ、片手にいつものステッキの代りに蝙蝠傘を突きながら、とつととそのコッテエヂの方へ歩いてゐた。
巣立ち (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
そんなにしてぴよんぴよん跳ねあつてるうちにいつか私は巴旦杏はたんきやうの蔭を、お嬢さんは垣根のそばをはなれてお互に話のできるくらゐ近よつてた。が、そのとき
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
やがてみのころよ。——就中なかんづくみなみ納戸なんど濡縁ぬれえん籬際かきぎはには、見事みごと巴旦杏はたんきやうがあつて、おほきなひ、いろといひ、えんなる波斯ペルシヤをんな爛熟らんじゆくした裸身らしんごとくにかをつてつた。
春着 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
エミリアンは、そのおいしい葡萄酒ぶだうしゆによつてきて、夢のやうな気持になりました。二百年も生きてるといふ白髪のおばあさん、魔法使まはふつかひうはさ死神しにがみ巴旦杏はたんきやうの実……何もかも夢のやうです。
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)
私が裏の稻荷側いなりわき巴旦杏はたんきやうの樹などに上つて居ると、お文さんはその下へ來てあの葉を探しに草叢の間を歩き𢌞りました。斑鳩いかるが來て鋭い聲で鳴いた竹藪の横は、私達がよく遊び𢌞つた場所です。
「うちの庭に、大きな巴旦杏はたんきやうの木が一本あります。その実をつまうと思つて木にのぼつた人を、どんな人でも、わたしの思ふとほりに、そこから動けないやうにすることが出来たらと、それがねがひです」
エミリアンの旅 (新字旧仮名) / 豊島与志雄(著)