差俯さしうつむ)” の例文
今、この瞳に宿れるしずくは、母君の御情おんなさけの露を取次ぎ参らする、したたりぞ、とたもとを傾け、差寄せて、差俯さしうつむき、はらはらと落涙して
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
又思いがけない殿様の御意に驚き、顔をあからめて差俯さしうつむいて居りますを、奥方は気の毒に思召して
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
満枝はたちまち声ををさめて、物思はしげに差俯さしうつむき、莨盆のふちをばもてあそべるやうに煙管きせるもてきざみを打ちてゐたり。折しも電燈の光のにはかくらむに驚きて顔をあぐれば、又もとの如く一間ひとまあかるうなりぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
おいの一徹短慮に息卷いきまあらく罵れば、時頼は默然として只〻差俯さしうつむけるのみ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
とかく言われてお登和嬢にわか愁然しゅうぜん差俯さしうつむきぬ。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
差俯さしうつむいた処へ、玄関から、この人のと思うから、濡れたのをいとわず、大切に抱くようにして持って来た。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「杯の月をもうよ、座頭殿。」と差俯さしうつむいて独言ひとりごとした。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)