そば)” の例文
そうして、一つどんと素気そっけなく鳴ると共にぱたりと留った。余は耳をそばだてた。一度静まった夜の空気は容易に動こうとはしなかった。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おつぎがあわてゝうしろかうとするときふたゝはげしくつたがおつぎのはなあたつた。おつぎは兩手りやうてはなおさへてちゞまつた。女同士をんなどうしもみ木陰こかげそばめてやうもなかつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その時突然奥の間で細君のうなるような声がした。健三の神経はこの声に対して普通の人以上の敏感をっていた。彼はすぐ耳をそばだてた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
二人が風に耳をそばだてていると、下女が風呂の案内に来た。それから晩食ばんめしを食うかと聞いた。自分は晩食などを欲しいと思う気になれなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
場所が場所なので、花よりもそちらを向いて眼をそばだてている人が沢山あった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
津田は陰晴定めなき天気を相手にして戦うように厄介やっかいなこの友達、もっと適切にいうとこの敵、の事を考えて、思わず肩をそばだてた。するといったん緒口いとくちいた想像の光景シーンはそこでとまらなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)