山嵐さんらん)” の例文
鳥鳴き、花咲き、潺湲せんかんたる水音みずおとと静かな山嵐さんらん——、そして、機織はたおりの歌とおさの音がどこかにのんびりと聞こえている。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頭のいただきから、山嵐さんらんをゆする三井寺みいでら大梵鐘だいぼんしょうが、ゴウーン……と余韻よいんを長くひいて湖水のはてへうなりこんでいった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
冷々ひえびえと樹海の空をめぐっている山嵐さんらんの声と一節切ひとよぎり諧音かいおんは、はからずも神往しんおうな調和を作って、ほとんど、自然心と人霊とを、ピッタリ結びつけてしまったかのごとく澄みきっていた。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さまたげのない額堂の席を、夜涼やりょう山嵐さんらんをほしいままにして、連歌の競詠きょうえいを試みているのかと思うと、闇の中に、眼ばかり光らしている武士たちの顔には、みじんもそんな風流気は見えず
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じん山嵐さんらんが、鞍馬山くらまやまの肩あたりから、サーッと冷気れいきをふり落としてきたかと思うと、八神殿しんでん冠桜かんむりざくらの下あたりに——竹童ちくどうのお師匠ししょうさま果心居士かしんこじのすがたが、めずらしくもほのかに見えたのである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)