)” の例文
韃靼だつたん人の槍よりも長い釣竿を握つて、息をめて湿り勝な岩の上に坐り、一尾の魚も取らずに、平気で一日も居るのは、耐忍力ではありませんか。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
見物は少し勝手が違うのに気が附く。対話には退屈しながら、期待の情に制せられて、息をめて聞いているのである。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
私はしばらく息をめて是等これらの文句を読んだが、どうも現実の出来事のやうな気がしない。併し私は急いで其処そこで、新しく間借しようとする家へ行つた。
日本大地震 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
群集ぐんじゆはあぶなさに息をめてゐる。ドルフは瞳を定めて河を見卸した。松明が血を滴らせてゐる陰険な急流である。其時ドルフは「死」と目を見合せたやうな気がした。
杖持ちたる男冷笑あざわらひて、聖母いかでか猶太のいぬを顧み給はん、く跳り超えよといひつゝいよ/\翁に迫る程に、群衆は次第に狹きを畫して、翁のんやうを見んものをと、息をめて覗ひ居たり。
わたくしは息をめて鐶に噛り付いてゐました。そこで、も少しで窒息しさうになりましたので、わたくしは手を放さずに膝を衝いて起き上がつて見ました。それでやつと頭だけが水の外に出ました。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
岡田は腕木にからんでいた手を放して飛び降りた。女達はこの時まで一同息をめて見ていたが、二三人はここまで見て裁縫の師匠のうちに這入った。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
その童の両の足の活溌な運動も見えなくなつて、いよいよ水中ふかく潜つて行つたことを観念すると、こんどはみんな息をめて、小さい心臓の鼓動をせはしくしてそこの水面を見てゐた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
お花は息をめてお松の跡に附いて歩いているが、頭に血が昇って、自分の耳の中でいろいろな音がする。それでいて、ひゅうひゅうと云う音だけは矢張際立って聞えるのである。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
僕は息をめていた。しばらくして足音は部屋を出て、梯子を降りて行った。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)