あま)” の例文
父は卓子テーブルにもたれて何かしきりと書きなぐつてゐた。娘はあまえるやうに父の手をとつた。そして教授がたつた今自分に結婚を申込んだ事を話して
そしてそれにあまえこむ気になって、「しかしずいぶん茶気のある人で、わたくしは偉いと思いますが?——」
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
この河があまえて、夜寒にヒシと岸辺に寄り添ふ時、銀いろの波がたつて、恰かもダマスクス刀の焼刄のやうにきらめいて、青々としたドニェープルは再び眠りに落ちる。
広義はあまったれて泣き声をたてた。広巳は広義の足にやっていた手をはずしてその両手を捕えた。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「そんなに怖い目して見るのは厭!」娘はあまえたやうにかぶりをふつた。「ねえ、阿母おつかさん、阿母おつかさんも結婚ぜんうち阿父おとうさんと一緒に温室に入つた事があつて。」
「今夜は珍らしいお客さんを一人連れてきた」と言って、高見さんが六七名の一座へ紹介してくれた時には、自分もいつもどおりお客にあまえこんだ時のような誇りを感じた。
猫八 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
「先生、ちよいとお伺ひ致しますが——」娘はあまえたやうな身振をした。「天国には結婚が無いやうに福音書に書いてありますが、あれは真実まつたくなんでございませうか。」
子供はあまえたやうに和尚の袖を引張つた。和尚は笑ひ/\袖を引き離した。
と一寸あまえたやうな口を利いた。抱月氏は怠儀さうに額を見た。
と言ひ言ひ、あまえるやうに男の顔を見る。