嫉妬心しっとしん)” の例文
それからひとの失敗を冷笑すること——親子の間柄でも容赦はない……相場師の神経質と嫉妬心しっとしんと来たら、恐らく芸術家以上でしょう
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
嫉妬心しっとしんを起すけれど、もとより執念深い性でないから、民子が一人になれば民子と仲が好く、僕が一人になれば僕を大騒ぎするのである。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
などゝ自分で建てる事が出来んとグッと込上げて参りますが、誰も此の嫉妬心しっとしんは離れる事は出来ませんものと見えます。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その二三のうちの一人に猛烈なる嫉妬心しっとしんと頑強なる飲酒癖をもった者がおり、時にしばしば泥酔して嫉妬のために狂い立ち、主君であり旦那であるところの吉近をば
長屋天一坊 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
濃いけれど柔かい地蔵眉じぞうまゆのお宮をば大事な秘密ないしょの楽しみにして思っていたものを、根性の悪い柳沢の嫉妬心しっとしんから、霊魂たましいの安息する棲家すみかを引っきまわされて、汚されたと思えば
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
而も連日召されることは勿論、一日の中にも幾度か召される。其都度女の人たちの嫉妬心しっとしん刺戟しげきして、皆から憎まれ、殊に其中の二人三人の女性ののろいを受けたらしくて、病死してしまう。
反省の文学源氏物語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
そう思えば机の抽斗ひきだしに芸者の写真が一枚大切そうにしまってあったがあれがお馴染なじみというものかしらんなんぞと余計な嫉妬心しっとしんまで起してその時ほど心の悲しく浅ましく思った事はありません。
食道楽:冬の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
そのおどろきにはかすかに暗いかげがさしていた。塾の建物を見まわして幼いころの寂しかった気持をそそられていたかれは、同時に、そのころ覚えた不快な嫉妬心しっとしんをも呼びさまされていたのである。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
と云うと、僕に始からある目論見もくろみがあって、わざわざ鎌倉へ出かけたとも取れるが、嫉妬心しっとしんだけあって競争心をたない僕にも相応の己惚うぬぼれは陰気な暗い胸のどこかで時々ちらちら陽炎かげろったのである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
雌の河童は雄の河童よりもいっそう嫉妬心しっとしんは強いものですからね、雌の河童の官吏さええれば、きっと今よりも雄の河童は追いかけられずに暮らせるでしょう。しかしその効力もしれたものですね。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)