太柱ふとばしら)” の例文
目に見えぬ金剛縄こんごうじょう太柱ふとばしらに身をくくりつけられているのと同じであった。ただ歯の根をかんで、事の手違いを、悔いいきどおるしかなかった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うまいことを思いついて立派に言い退けたが、淡路守は、もう聞く興味もなさそうに、わざと冷然と太柱ふとばしらによりかかって、しきりに何かお書物を調べながら
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
太柱ふとばしらも、高い天井も、墨一色のしじまである。ただそのまんなか辺に、ぽつねん孤坐していた高氏の影だけが、微かに白い。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四方尺角ばかりの太柱ふとばしらをたて、あらい格子組こうしぐみに木材を横たえて、そのなかに、腕をしばられた文覚は、見世物の熊のように、乗せられているのだった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だれかに、腕でも斬ってもらわないかぎり、鎖の寸断されるはずもなし、とう太柱ふとばしらくだけるはずもないのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その地盤の上に十二けん四面の伽藍がらんいしずえが、さながら地軸のように置かれた、堂塔内陣の墨縄は張りめぐらされ、やがてひのき太柱ふとばしらと、巨大な棟木むなぎと、荘重なはりも組まれた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
不壊ふえ太柱ふとばしらが、でんと坐っているような力強さを、たれにも感じさせるのだった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
都から帰って来たこの兄には、自分たちには、はかり知れない新知識が備わり、充分な人生体験と、将来の抱負もあるものと、鑽仰さんぎょうしていた。父に代る太柱ふとばしらが立ったように、力としていた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここの太鼓もずいぶん久しい年代をているらしい。びょうの一粒一粒が赤くびているのでもわかる。四方の太柱ふとばしらでさえ風化ふうかして、老人の筋骨のように、あらあらと木目のすじが露出ろしゅつしている。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)