夜闇よやみ)” の例文
……で、その娘が舟ばたをまたぐと、巫女たちはワッとそれを取りかこんで、真っ暗な夜闇よやみの中へ、さらって行ってしまうの。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
かの女は、枕元まくらもとのスタンドの灯を消し、自分のほおに並べて枕の上に置いてあった規矩男の手紙を更に夜闇よやみのなかに投げ出した。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
夜闇よやみの庭先の忍逢いに、なんのための面甲かと理解に苦しんでいたが、癩者かたいまきというなら話は至極疏通する。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
まだあかつきしらけた光が夜闇よやみきぬわづか穿うがつてゐる時で、薄曇うすぐもりの空の下、風の無い、沈んだ空気の中に、二人は寒げに立つてゐる。英太郎えいたらうは十六歳、八十次郎やそじらうは十八歳である。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
火は四辺あたりを照らしていた。今まで夜闇よやみに閉ざされていた真っ黒の大地が明るんで見えた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
霧が立って夜闇よやみの色を濃くして来た。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
女は暑さをも寒さをも夜闇よやみをも雨雪うせつをもいとわずに、衝動的に思い立って、それを買いに往くことがある。万引なんと云うことをする女も、別に変った木で刻まれたものでは無い。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)