塗笠ぬりがさ)” の例文
花野を、あか塗笠ぬりがさをかぶつて、狐葛の葉が飛んでゆく舞臺のりは、どんなに幼心をとらへたらう。
春宵戯語 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
稚児輪鬘ちごわかづらをつけ、常盤御前ときわごぜんかぶるようなあの塗笠ぬりがさにそれから杖を持つと、それで私の仕度は出来上った。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
「暑いっ。——こんな着物はもう嫌だ。塗笠ぬりがさもうるさい。……ねえ吉次、脱いでもいいだろう」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いづれも、塗笠ぬりがさ檜笠ひがさ菅笠すげがさ坊主笠ばうずがさかぶつてるとふ。
くさびら (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
網代あじろより深い椀形わんなりの紙の塗笠ぬりがさかもしれない。ともかく、師直も師泰もよほど人目をきらったとみえる。意識的に馬混みの間を行き、いつも尊氏の背が見えるぐらいな所にいた。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
仔馬こうま牝馬めうまを曳いて人ごみの真ん中を通って来たので、往来の人たちは市の両側へ避けたが、頭巾ずきんのうえに塗笠ぬりがさをかぶって、眼もとばかり出して歩いて来た武家は、けることを知らなかった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)