四阿屋あずまや)” の例文
この影の奥深くに四阿屋あずまやがある。腰をかけると、うしろさえぎるものもない花畠はなばたけなので、広々と澄み渡った青空が一目ひとめ打仰うちあおがれる。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
半腹に鳳山亭と匾したる四阿屋あずまやのき傾きたるあり、長野辺まで望見るべし。遠山の頂には雪をいただきたるもあり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
お悦が小走りにと追って、四阿屋あずまやがかりの茶屋の軒下に立つと、しばらくしてじゃの目を一本。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
仮山つきやま背後うしろになった四阿屋あずまやの方へ往ったのだ、四阿屋の中には、人のひそひそと話す声がしていた、枝葉の間からそっとのぞくと、月の陰になって中にいる人は見えないが
雨夜草紙 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
四阿屋あずまやの方には、遊覧の人の姿などが、働いている若い者に交ってちらほら見えていた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
言わないで、一しょに行くのだよ。どうもおれはプラアテルが見たいのだから。こないだ一しょに行って愉快に思った処へ、もう一遍行って見たいのだ。それあの四阿屋あずまやだな。あそこなら冷たくはないよ。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
うしろの黒い常磐木ときわぎの間からは四阿屋あずまやわら屋根と花畠はなばたけに枯れ死した秋草の黄色きばみ際立きわだって見えます。縁先の置石おきいしのかげには黄金色こがねいろの小菊が星のように咲き出しました。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
黄金こがね穹窿まるてんじょうおほひたる、『キオスク』(四阿屋あずまや)の戸口に立寄れば、周囲に茂れる椶櫚しゅろの葉に、瓦斯燈ガスとうの光支へられたるが、濃き五色にて画きし、窓硝子をりてさしこみ
うたかたの記 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
それから給仕を呼んで勘定をして、二人は足早に四阿屋あずまやを出た。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)