吾児わがこ)” の例文
その日は河内家かはちや総見そうけんがあつたので、肝腎のかあは皆と一緒に場に坐つて、惚々ほれ/″\吾児わがこの芸に見とれて、夢中になつてゐた。
そうして今一度、吾児わがこの血を吸い込んだであろう足の下の、砂利の間の薄暗がりを、一つ一つにのぞき込みつつ凝視した。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
側に居たお種は吾児わがこを励ますように言って、思わず両手で顔をおおうた。次の部屋には、幸作が坐って、頭を垂れていた。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それから自分自身は跡片付あとかたづけを済ますと大急ぎで支度を整えて、吾児わがこの跡をうようにして学校へ出かけるのであったが、それがいつも遅れ勝ちだったので
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こういう弟の話を、お種は直に吾児わがこの方へ持って行った。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
何よりも第一に、そんな恐ろしい申伝もうしつたえのある品物を、かけ換えのない吾児わがこに渡すような無慈悲な母親が、この世に在ろうとは思われぬので御座いますが
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とお種は健気けなげにも、吾児わがこを励ますように言う。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……けれどもこうして吾児わがこというものが出来て見ますと、つくづくあの絵巻物の恐ろしさがわかって来ました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ツイこのあいだまで立ち働らいていた妻の病みやつれた姿や、現在、先に帰って待っているであろう吾児わがこの元気のいい姿を、それからそれへと眼の前に彷彿ほうふつさせるのであった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
可愛い吾児わがこの行末までも。生きて甲斐ない一人のために。棄てて介抱するのが道理か。人に迷惑かけないうちに。患者もろとも首でもくくって。一家揃うて死ぬのが道かや。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
何をいうにも内地から遥々はるばるの海上を吾輩が自身に水先案内パイロテージして、それぞれの漁場に居付かせてやった、吾児わがこ同然の荒くれ漁師どもだ。その可愛さといったら何ともいえない。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
こうなると吾児わがこの幸福なぞは問題でない。吾児以外の誰でもいい。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)