吉凶きっきょう)” の例文
「御縁談ですか。それとも大体にお身の上の吉凶きっきょうを見ましょうか。」とわざとらしく笑顔をつくる。君江は伏目ふしめになって
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
一方に名などどうでもよいではないかという人があれば、また一方には人は名によりて吉凶きっきょうありとて、ことに近ごろ姓名判断などさかんに流行はやる。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
吉凶きっきょういずれか、いわば、その運だめしともいえる城南の興行の瀬ぶみに、房枝は新団長の黒川とつれだち、横浜をあとに、東京へ出かけたのであった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうぞ立派に暮らしておくれ。……さて例の宝壺だが、これは吉凶きっきょう両面の壺だ。悪人が持てばたたりがあるが、だが善人が持つ時は、福徳円満を得るそうだ。
大捕物仙人壺 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
また、かれらのなかには、まれには、学者がくしゃのおちぶれも、まじっていますので、およびもつかない天界てんかいのことや、または吉凶きっきょう予言よげんみたいなことまでももうしあげます。
珍しい酒もり (新字新仮名) / 小川未明(著)
閏年うるうどしには二十六本、すなわち十三本の倍数を打つというから、多分はこれにって月々の吉凶きっきょうまたは晴雨をぼくしたのだろうと思うが、現在はもう自信がなくなったものか
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
吉さんは隣字の人で、日蓮宗の篤信者とくしんじゃ、病気が信心でなおった以来千里眼を得たと人が云う。吉凶きっきょう其他分からぬ事があれば、界隈かいわいの者はよく吉さんに往って聞く。造作ぞうさなく見てくれる。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
女学校のクニ子は毎日弁当もろくに咽喉のどを通らず、一里の道を唇の色も失って駆けて帰ってきては、家の中の空気から吉凶きっきょうをさぐりだそうとでもするような目をしてだまって母親の顔を見た。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
田町には名高い占い者があって、人相も観る、墨色すみいろ判断もする、人の生年月日を聴いただけでもその吉凶きっきょうを言い当てる。お金は帰りにここへも寄って、外記の生まれ年月をいって判断を頼んだ。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
夜なべに働く人々に食わせるだけでなく吉凶きっきょうさまざまの事件のために、夜遅くまで起きている人にも出す。日中の間食を或いはヒナガとも謂うに対して、是をヨナガというのは夜長であろう。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)