古舗しにせ)” の例文
此所ここで話が前置きをして置いた浅草大火のくだりとなるのですが、その前になお少し火事以前の雷門を中心としたその周囲まわりの町並み、あるいは古舗しにせ
ほどなく、きれいな楊柳ようりゅう並木の繁華街の一軒に、古舗しにせめいた大店おおだなの間口が見える。朱聯金碧しゅれんこんぺきの看板やら雇人やといにんだの客の出入りなど、問わでも知れる生薬問屋きぐすりどんやの店だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
植木屋を連れて、三人で近くの津村の控邸ひかえへ行くと、下町の古舗しにせの大旦那といった上品な老人が、巻帯に白足袋といった恰好で、えんの落ちた数寄屋風の離屋はなれから出てきた。
蝶の絵 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ところが、肝腎かんじん武大ぶだのほうでは、一こうにうけるふうがないのだ。あくまで金蓮きんれんかばっている。しかも街道一の古舗しにせの大旦那が、ひとの女房に手を出すはずがあるもんか。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
県城通りのえんじゅ並木に、ひときわ目立つ生薬きぐすり問屋がある。陽穀ようこく県きっての丸持まるもちだともいう古舗しにせだ。男はその薬屋の主人で名はけい苗字みょうじは二字姓の西門せいもんという珍らしい姓だった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)