半蔀はじとみ)” の例文
梅壺の東おもての半蔀はじとみをあげて斉信に逢い、凝花舎ぎょうかしゃの前の西の白梅、東の紅梅を背景にして立っている美しい衣の男の姿を
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
母のおよしが妙に思って、横手の半蔀はじとみから物干の方を見上げて見ると、お蔦が、膝をつくようにして、雪の上にがっくりと上身をのめらせていた。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
沙金しゃきんは、おれのく時刻を見はからって、あの半蔀はじとみの間から、雀色時すずめいろどきの往来をのぞいている。そうしておれの姿が見えると、鼠鳴ねずみなきをして、はいれと言う。
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ああ、串戯じょうだんじゃない——たなざらしの福助の置物という処が、硝子箱がらすばこの菊慈童と早がわりをしているんだ。……これは驚いた。半蔀はじとみ枢戸くるるどが総硝子になって、土間に黄菊と白菊か。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
終日、窓の外に吊された半蔀はじとみを引き上げることもない日々がつづいた。
(新字新仮名) / 山川方夫(著)
それは半蔀はじとみ女房輦にょうぼぐるまであったが、余りに用い古されたので、久しく車小舎くるまごやの一隅へすすにまみれていたものらしく、前御簾まえみすは裂け、ながえの塗りはげ落ち、ただそれを引くべく付けられた牛ばかりが
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軒には品のいい半蔀はじとみを釣るんだ。……家のまわりには檜垣ひがきをめぐらしてもいい。それから、小ざっぱりした中庭を作ろう。切懸きりかけのような板囲いで仕切って、そいつには青々とした蔓草つるくさわせるんだ。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
一間半の窓で、三枚の半蔀はじとみが嵌っていて、必要があれば上に押し上げられるようになっている。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そして、そこの半蔀はじとみの蔭まで来て、覗くともなく、内をうかが
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一方は出居でいの間、一方は勝手で、奥に板戸の大きな押入のついた寝所があった。窓には半蔀はじとみがつき、勝手の棟から柾屋根を葺きおろして、そこが吹きぬけの風呂場になっているらしかった。
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
とこずれがひどくなって寝がえりもできない。梶井はあおのけに寝たまま、半蔀はじとみの上の山深い五寸ばかりの空の色を横眼で眺めていると、伊良がいつものように、「きょうはどうです」と見舞いにきた。
骨仏 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)