刻薄こくはく)” の例文
そうして小鼻がちんまりとしている。さぞ舞台でも横顔が、際立きわだって美しい事だろう。口は薄手で大型である。で何んとなく刻薄こくはくに見える。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼はこの間話し合った伝熱作用のことを思い出した。血の中に宿っている生命の熱は宮本の教えた法則通り、一分一厘の狂いもなしに刻薄こくはくに線路へ伝わっている。
寒さ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
刻薄こくはくな性格の持主で、店子や借地人からは評判が宜しくない方、一部では亭主の勝藏を引き摺り廻して、此内儀が老木屋の采配を振るつて居るのだといふ噂もあります。
かと云って、単なる痴情の殺人にしては、余り考え過ぎている。この事件の蔭には、非常にかしこい、熟練な、しかも、残忍刻薄こくはくな奴が隠れている。並々の手際てぎわではないよ
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
洪州の州学正しゅうがくせいを勤めているちょうという男は、元来刻薄こくはくの生まれ付きである上に、年を取るに連れてそれがいよいよ激しくなって、生徒が休暇をくれろと願っても容易に許さない。
然りと雖も、小人のあやまち刻薄こくはく、長者のあやまち寛厚かんこう、帝の過をて帝の人となりを知るべし。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
利をり、名をむさぼり、犯すべからざるの不品行を犯し、忍ぶべからざるの刻薄こくはくを忍び、古代の縄墨じょうぼくをもってただすときは、父子君臣、夫婦長幼の大倫も、あるいはめいを失して危きが如くなるも
徳育如何 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その眼と眼の間あたりに漂っている刻薄こくはくな表情を眺めながら、私は、いつか講談か何かで読んだことのある「終りを全うしない相」とは、こういうのを指すのではないか、と考えたことだった。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
刻薄こくはくの現実はどこまでも刻薄であれよ。
が、運命は飽くまでも、田岡甚太夫に刻薄こくはくであった。彼の病はおもりに重って、蘭袋らんたいの薬を貰ってから、まだ十日と経たない内に、今日か明日かと云う容態ようだいになった。
或敵打の話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
こう云う自分たちの笑い声がどれほど善良な毛利先生につらかったか、——現に自分ですら今日きょうその刻薄こくはくな響を想起すると、思わず耳をおおいたくなる事は一再いっさいでない。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
或友人は森先生の詩歌に不満を洩らした僕の文章を読み、僕は感情的に森先生に刻薄こくはくであると云ふ非難を下した。僕は少くとも意識的には森先生に敵意などは持つてゐない。