凛烈りんれつ)” の例文
曙の色は林の中まで追いついて、木膠や蔦の紅葉の一枚一枚に透き徹る明る味をして、朝の空気は、醒めるように凛烈りんれつとなった。
雪中富士登山記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
次いで新島君はこの事業を企つるに至った精神を話されたが、その熱誠と凛烈りんれつたる精神には一座感動せざるを得なかった。
隼人の稽古ぶりは凛烈りんれつであったが、終って鍋を囲むときになると、にわかに温かい、なごやかな空気がみんなを包む。
薯粥 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
此日密雲低く垂れて寒気凛烈りんれつ、男性的競技に持つて来いの天気、四周の観覧席は立錐の余地なき盛況を呈した。
オリムピヤ選手予選 (新字旧仮名) / 長瀬金平(著)
の語あるを以ツて人或は独乙は温かき生血を有する動物が凍死する程寒威かんゐ凛烈りんれつの国なるやと疑ふものあり。
舞姫 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
前者は春風駘蕩たいとう、後者は寒風凛烈りんれつ! どんなに寒い日でも熊田校長は外套がいとうを着ない、校長室に火鉢もおかない、かつて大吹雪おおふぶきの日、生徒はことごとくふるえていた日
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
さちよは、ひとりで大笑いした。見ていると、まるで二匹の小さい犬ころが雪の原で上になり下になり遊びたわむれているようで、期待していた決闘の凛烈りんれつさは、少しもなかった。
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
一見するに凛烈りんれつ、人を圧するような気品と凄気せいきをたたえて羽織はかまに威儀を正しながら雪の道に平伏している姿は、どうやら、一芸一能に達した名工、といった風貌ふうぼうの老人なのです。
洪濛こうもうたる海気三寸の胸に入りて、一心見る/\四劫しごふに溢れ、溢れて無限の戦の海を包まんとすれば、舷に砕くるの巨濤ほとばしつて急霰きふさんの如く我と古帽とに凛烈りんれつの気を浴びせかけたる事もありき。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
三位卿の追詰ついきついよいよ凛烈りんれつ、新吉も松兵衛も、もう舌の根がうごかない。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暦の上では春になったが、寒さはまだきびしく、川から吹きあげてくる夜風は、かんの内よりもかえって凛烈りんれつである。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
冬景色であるためか、気候もひどく凛烈りんれつあらい。道をゆく人も、野良でみかける児女たちも、身装みなりの貧しさはともかく、みな痩せて血色が悪く、顔はとげとげしていた。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その呼び声の調子が厳しく凛烈りんれつだったので、二人は身をちぢめながら地面へ額をすりつけた。
蜆谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「霜月に入ると寒気が厳しくなります。榛名はるな、赤城と真向から吹颪ふきおろすのが、俗に上州風と申して凛烈りんれつなものでござります。拙者どもは馴れておりますが先生には御迷惑でござりましょう」
夜明けの辻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)