円錐えんすい)” の例文
旧字:圓錐
隙間すきま風が当たるのを恐れてどこででも寒そうに帽子をかぶっていたが、その帽子をぬぐと、円錐えんすい形の赤い小さな禿頭はげあたまが現われた。クリストフと弟たちはそれを面白がった。
すると念力ねんりきの通じたように、見る見る島の影が浮び出した。中央に一座の山の聳えた、円錐えんすいに近い島の影である。しかし大体の輪郭りんかくのほかは生憎あいにく何もはっきりとは見えない。
不思議な島 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
素破すわこそというので、客席から割れるような拍手が起った。客席の灯火あかりがやや暗くなり、それと代って天井から強烈なスポット・ライトが美しい円錐えんすいを描きながら降って来た。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
揺すり動かし砕き去ろうとする狂瀾怒濤に抗して、不滅を叫ぶ興奮から岩礁はいやが上にも情熱の火を燃やす。遠空とおぞらにかすむ火山の円錐えんすいがこの死闘を静かに見おろして煙をく。
円錐えんすい形の、しりとがった大きな柹であるが、真っ赤に熟し切って半透明はんとうめいになった果実は、あたかもゴムのふくろのごとくふくらんでぶくぶくしながら、日にかすと琅玕ろうかんたまのように美しい。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
宇賀長者の邸跡やしきあととしては、今、吾川郡あがわぐん浦戸村の南になった外海がいかいに沿うた松原に、宇賀神社と云う村社そんしゃがある。その村社の背後うしろには古墳らしい円錐えんすい形の小丘しょうきゅうもある。土地の人はこれ糠塚様ぬかづかさまと云っている。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
時としてはその境地が、鶴見には八幡やわたやぶのようにも見える。鴎外はそこで円錐えんすいの立方積を出す公式をひとりで盛んに講釈している。結局人を煙に巻いているのではなかろうか。それも好い。