僥倖さいわい)” の例文
僥倖さいわいに、白昼の出水だったから、男女に死人はない。二階家はそのままで、辛うじてしのいだが、平屋はほとんど濁流の瀬に洗われた。
絵本の春 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
刃物きれものも悪かったか横にいだぐれえだから心配しんぺえはねえ、浅傷あさでだったは勿怪もっけ僥倖さいわいなんにしても此処に居ちゃアいけねえから、早く船へお乗んなせえ。
外記も夜道を忍んで時どきに逢いに来たが、箕輪田圃で蛍を追う子供たちにも怪しまれないのは僥倖さいわいであった。
箕輪心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
また、その前後、二、三度影を見かけた肩幅の広い覆面も、二人には常から解けない疑問でありましたが、計らずも、重ねてここでつかッたのは、願ってもない僥倖さいわいです。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こはかの悪僕八蔵が、泰助に尾し来りて、十分油断したるを計り、狙撃ねらいうちしたりしなり。僥倖さいわいに鏡を見る時、後に近接ちかづく曲者映りて、さてはと用心したればこそ身を全うし得たるなれ。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
内障眼そこひのようだが、此処で逢ったは僥倖さいわい、此奴があっては枕を高く寐ることは出来んから、此処で討果してしまえば丈助も此方こっち安々やす/\と眠られる、幸いのことだと思い、雪は益々降出し
聞えないで僥倖さいわい。ちょっとでも生徒の耳に入ろうものなら、壁を打抜ぶちぬく騒動だろう。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新「アヽ何処から飛んで来たか鉄砲の流丸それだま、お蔭で己は助かったが猟師が兎でも打とうと思って弾丸たまれたか、アヽ僥倖さいわい命強いのちづよかった、危ない処をのがれた、たれが鉄砲を打ったか有難いことだ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
僥倖さいわいそこでも乗客のりてが込んだ、人蔭になって、まばゆい大目玉の光から、顔をわしてまぬかれていたは可いが、さて、神楽坂で下りて、見附の橋を、今夜に限って、高い処のように、危っかしく渡ると
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
むしろ僥倖さいわいだったのである。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)