うかゞ)” の例文
その漸く近づくをうかゞへば、靜かにうごかすものは一人の老翁なり。艣の一たび水を打つごとに、波は薔薇花紅ばらいろべにを染め出せり。舟のへさきに一人のうづくまれるあり。その形女子をみなごに似たり。
之によりて朝議をうかゞふの間、しばらく坂東の諸国を虜掠りよりやくし了んぬ。
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
然るに柏軒先生は毎旦将軍に謁し、退出後も亦頗多事であつたので、多くはわたくしが代つて脈をうかゞひ方を処した。又淹京間は請に応じて往診することが日に数次で、是は皆わたくしの負担であつた。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
食卓に就きて程經ぬるに、ジエンナロのみ來ざりければ、フランチエスカの君は心を勞し、公子はあまたたび人を馳せて、その歸るをうかゞはせぬ。ジエンナロはやうやくにして來りぬ。
我目前には猶突兀とつこつたる山骨の立てるあり。物寂しく獨り聳えたる塔のさきに水鳥の群立むらたち來らんをうかゞひて網を張りたるあり。脚底の波打際を見おろせばサレルノのまちの人家碁子きしの如くつらなれり。