今昔こんじやく)” の例文
が、曾ては聖愛などを——その時から、肉的に見てたが——歌つたことがある渠は、今更らのやうに今昔こんじやくの感無しにはゐられなくなつた。
僕はいつか何かの本に三代将軍家光いへみつは水泳を習ひに日本橋にほんばしへ出かけたと言ふことを発見し、滑稽に近い今昔こんじやくの感を催さないわけにはかなかつた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
はてしなき今昔こんじやくの感慨に、瀧口は柱にりしまゝしばし茫然たりしが、不圖ふといなづまの如く胸に感じて、想ひ起したる小松殿の言葉に、ひそみし眉動き、沈みたる眼閃ひらめき
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
さばかり間遠まどほなりし逢瀬あふせなるか、言はでは裂けぬる胸の内か、かく有らではあきたらぬ恋中こひなかか、など思ふに就けて、彼はさすがに我身の今昔こんじやくに感無き能はず、枕を引入れ、夜着よぎ引被ひきかつぎて、寐返ねがへりたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
僕は天神橋てんじんばしたもとから又円タクに乗ることにした。この界隈かいわいはどこを見ても、——僕はもう今昔こんじやくの変化を云々うんぬんするのにも退屈した。僕の目に触れるものはなかば出来上つた小公園である。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
花のもとの半日のかく、月の前の一夜の友も、名殘は惜しまるゝ習ひなるに、一向所感の身なれば、先の世の法縁も淺からず思はれ、流石さすがの瀧口、かぎりなき感慨むねあふれて、轉〻うたゝ今昔こんじやくじやうに堪へず。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)