乾涸ひから)” の例文
其の頃は体が今程肥満して居ず、見すぼらしい程痩せ乾涸ひからびて目方も十一二貫しかなかつた代りに、脚だけは非常に達者なものであつた。
青春物語:02 青春物語 (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
人差指はその家婦かみさんだ。干鱈ひだらのやうに乾涸ひからびた男まさり、あさつぱらから女中をちどほしだ、けるのだらう、徳利は手を離さない、好きだから。
五本の指 (旧字旧仮名) / ルイ・ベルトラン(著)
伝六郎は床の間の上に並んでかっている二枚の額を見上げた。古びた金縁の中に極めて下手な油絵の老夫婦の和服姿が乾涸ひからびたままニコニコしていた。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ちょうど乾涸ひからびたほしいのようなもので一粒ひとつぶ一粒に孤立しているのだから根ッから面白くないでしょう。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その真暗な茫々ぼうぼうたる平地は一面の古沼であって、其処そこに沢山のはすが植わっていたのである。蓮はもう半分枯れかかって、葉は紙屑かみくずか何ぞのように乾涸ひからびている。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
老婆は縁側へ両手を突いたまま、乾涸ひからびた咽喉のどを潤おすべくグッと唾液つばきを嚥み込んだ。
燦爛さんらんとした星の空をいただいて夢のような神秘な空気におおわれながら、赤い燈火をたたえて居る夜の趣とは全く異り、秋の日にかんかん照り附けられて乾涸ひからびて居る貧相な家並を見ると
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その乾涸ひからびた、固定した視線の一直線上に、雪で真白になった晩香坡バンクーバの桟橋がある。その向う一面に美しい燈火ともしびがズラリと並んでいようという……ところまで、やっとぎ付けたんだがね。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)