乞食坊主こじきぼうず)” の例文
只今ただいまご門の前へ乞食坊主こじきぼうずがまいりまして、ご主人にお目にかかりたいと申しますがいかがいたしましょう」と言った。
寒山拾得 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
明和九年の行人坂の火事には南西風に乗じて江戸を縦に焼き抜くために最好適地と考えられる目黒の一地点に乞食坊主こじきぼうず真秀しんしゅうが放火したのである。
函館の大火について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「ええ、多寡たかの知れた乞食坊主こじきぼうずのひとりぐらいに、この狼狽ろうばいはなにごとだ、取りかこんで、からめってしまえッ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
時々は乞食坊主こじきぼうずの便利にも供せられたか知らぬが、一方にはそれが私たちの身の行いを、知らずらずのうちにどの位、引き締めていたか知れぬのである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
話が伝わり伝わって、その村へ来ていた、乞食坊主こじきぼうずの耳へはいった時、坊主は、貉の唄を歌う理由を、仔細らしく説明した。——仏説に転生輪廻てんじょうりんねと云う事がある。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
いやな、気味の悪い乞食坊主こじきぼうずが、村へ流れ込んだと思ったので、そう思うと同時に、ばたばたと納戸へ入って、箪笥たんすそばなる暗い隅へ、横ざまに片膝かたひざつくと、せわしく、しかし、ほとんど無意識に
海異記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一度などは、都を離れた遠い野末のずえに行き倒れていたのを捜し出されたとやらで、戻った時の姿を見ると、髪は乱れ、衣は破れ、手足は泥にまみれて、乞食坊主こじきぼうずのようになっていた。乳人はあきれて
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
この乞食坊主こじきぼうずめ。(親鸞を押す)
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
乞食坊主こじきぼうずに類した一人の俳人芭蕉ばしょうは、たったかな十七文字の中に、不可思議な自然と人間との交感に関する驚くべき実験の結果と、それによって得られた「発見」を叙述しているのである。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「おや、この乞食坊主こじきぼうずめ、よくも生意気なまいきな手だしをしやがったな!」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)