不馴ふな)” の例文
すると若い、いかにも事務に不馴ふなれのような巡査は、全く当惑したように固くなって、わざわざ帳面など繰りひろげて見たりしてくれた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
すくなくとも、不馴ふなれな文字では血肉がこもらなくて、自分の文字のようには見えず、空々そらぞらしくて、観念がそれについて伸びて行かないのであった。
文字と速力と文学 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
私たちこういう不馴ふなれな商売を致しましても、これでやはり幾分かはお国の役に立っているのかと思いまして、一所懸命やることに決心致しました。
I駅の一夜 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
しかし、その患者に附いていた看護人は、不馴ふなれであったため、すぐさま、医員を呼びに行かないで、患者に向って、そのナンセンスなことを告げた。
二重人格者 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
不馴ふなれのためにペンが横へれるかも知れませんが、頭が悩乱のうらんして筆がしどろに走るのではないように思います。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
田舎いなか風のんだ若い女房などは客と応答する言葉もわからず、敷き物を出すことすら不馴ふなれであった。
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それはバーの主人がときどき休む月曜日の夜に、不馴ふなれなマダムが時々こいつを客に飲ませるのだ。勿論もちろんマダムはそんな妖酒とは知らず、安ウイスキーだと思って使ってしまうのだ。
地獄街道 (新字新仮名) / 海野十三(著)
文章に不馴ふなれな私は、文章を駆使くしするのでなくて文章に駆使されて、つい余計よけいなことを書いてしまったり、必要なことが書けなかったりして、折角の事実が、世のつまらない小説よりも
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
不馴ふなれの老爺ろうやもまじっている劇団ゆえ、むさくるしいところもございましょうが御海容ごかいようのほど願い上げます。ホレーショーどのは、外国仕込みの人気俳優、まず、御挨拶ごあいさつは、そちらから。
新ハムレット (新字新仮名) / 太宰治(著)
経営難と闘いつつ不馴ふなれな家業を再興するのに不向きなことを考え、より安全な道を選んだ結果で、当人にすれば養子たる身の責任を重んじたからこその処置なのであるが、雪子は昔を恋うるあまり
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)