一髪いっぱつ)” の例文
しこうして露国またそのきょじょうぜんとす。その危機きき実に一髪いっぱつわざるべからず。し幕府にして戦端せんたんを開かば、その底止ていしするところいずれへんに在るべき。
一時ひとしきり魔鳥まちょうつばさかけりし黒雲は全く凝結ぎょうけつして、一髪いっぱつを動かすべき風だにあらず、気圧は低落して、呼吸の自由をさまたげ、あわれ肩をもおさうるばかりに覚えたりき。
取舵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし兵馬の金剛杖は、その思いがけない一筋の矢を、一髪いっぱつかんに打ち落すことができました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
けれど前後を取り囲んでいる三河譜代ふだいの面々は、さすがに鉄のようにこわばった顔をしていた。一髪いっぱつの隙もない緊張を示していた。石川数正、酒井忠次の両家老以下が固めている。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし一髪いっぱつの私情にでも引かれたら彼の一門も明智と同じものになったろう。まさに累卵るいらんをささえたのである。しかし、外に善処ぜんしょし、内にはその危機を脱するまでの苦心は言葉に絶えたものがある。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)