一睨いちげい)” の例文
ぜなら、いまだかつて何者も制御し得なかった反絵の狂暴を、ただ一睨いちげいの視線の下に圧伏さし得た者は、不弥うみの女であったから。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「何をビク/\するんだ」と、主人は吾妻を一睨いちげいせり「其様そんなことで探偵が勤まるか——篠田や社員の奴等に探偵と云ふことを感付かれりやなかろな」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
「無礼者。わらわを知らぬか」と一睨いちげいすると、呉一郎は愕然たるおももちで鍬を控えて立止ったが、「アッ。貴女あなたは楊貴妃様」と叫びつつ砂の上に跪座きざした。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あたりを一睨いちげいした時分から、第三者としての見物の注意がようやくこの存在に向って来ました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「こりゃ千浪——」と一人樹の根に掛けて離れていた大月玄蕃げんばは、冷然と一睨いちげいして
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰も主人でござると言ってないのにまずもって私に鋭い一睨いちげいをくれた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
恐らくそれは此女の自分を一睨いちげいした時の目付それであらう。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
といひつつ海野は一歩を進めて、更に看護員を一睨いちげいせり。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「ヤ、松島さん」と色を失つて周章する剛造を、侯爵は稍々やゝ垂れたる目尻にキツと角立てて一睨いちげいせり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
彼はふくろふの如き鋭きまなこを放つて会衆を一睨いちげいせり、満場の視線は期せずして彼の赤黒き面上に集まりぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)