一図いちづ)” の例文
旧字:一圖
どう云ふ作品が難有ありがたきか、そんな事はおぼろげながらわかつてゐれど、一図いちづにその道へ突き進む前に、もつといろいろな行き方へも手を出したい気少からず。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
我が抜苦ばつく与楽よらく説法せつぱううたがふ事なく一図いちづありがたがツて盲信まうしんすれば此世このよからの極楽ごくらく往生おうじやうけつしてかたきにあらず。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
忠義一図いちづのお父さんは一も二もなくお受けをしてきたが、二男じなんの裕助君が異議を申し立てたのにおどろいた。お母さんも無条件の賛成でなかった。得心とくしんのような不得心ふとくしんのようなことばかりいう。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ほんたうにあの晩の雛は夢だつたのでございませうか? 一図いちづに雛を見たがつた余り、知らず識らず造り出した幻ではなかつたのでございませうか? わたしはいまだにどうかすると
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この理想主義を理解せざる世間は藤岡をもくして辣腕家らつわんかす。滑稽こつけいを通り越して気の毒なり。天下の人はなんと言ふとも、藤岡は断じて辣腕家らつわんかにあらず。だまかし易く、欺かされ易き正直一図いちづの学者なり。
学校友だち (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)