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ふみかへ
醫學生は
肌脱で、うつむけに
寢て、
踏返した
夜具の
上へ、
兩足を
投懸けて
眠つて
居る。
立ち出て東の空へぞ
旅立けり時に享保三年九月十日の事なり
足に
任せて行けるに十日の月さし出つゝ
暮て
宿なき一人
旅頻りに急ぎ
歩行し所にぴかりと
光る物あり足にて
踏返せしに女の
櫛なりければ何方の人が
落せしやらんと手に
翳し見れば
鼈甲の
最古びたるにて
齒も三ツ四ツ
缺たり是を
穿物の
緒が
弛んで
居たので
踏返してばつたり
横に
轉ぶと
姿が
亂れる。