“術(て)” の例文
うまい術(て)を考えたものだよ、——もっともそれも丈夫な人間に出来ることで、病身の竜吉には先ずむずかしいと見なければなるまい。
奔馬のまえに屈みこむ美人を轢(ひ)き殺してゆくほど勇気のある馭者はかつてなかった。術(て)もなく、お光さんの甘い策にかかるのだった。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ところで、この難局を打開する道として、もっとも一つの可能性としてではあるが、科学の力を使ってみるという術(て)が一つ残されている。
科学は役に立つか (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
逃(に)げるより他(ほか)に術(て)が無いから、後(あと)の事なんか考へてゐる暇が無い。自分は些(ちつ)との隙(すき)を見て後(あと)をも見ずにすたこら駈出した。
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
しかし移り気の花柳街にいかに美貌の人間でもうっちゃって置いて人気がそう永く保てるものではない。自分は人気を続ける術(て)を工夫し覚えた。
美少年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
うまい術(て)もあったものだ、どうでしょう、俺のこの着物へ五両つけて仮父(おやぶん)に差しあげますから、首の附いたその衣を俺に譲ってもらいたいものだが
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
道が分らぬから術(て)を求める。術を以て先ずおのが角を立派にし、おのが筋骨を強くし、おのが身を大きくしようとする。其段になればやはり闘だ。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「女(ばば)あが人の上に乗つかつてるからにやあ、この女(ばば)あめ、てつきり人を乗りまはす術(て)を知つてるにちげえねえだよ!」
や、早(は)や其時(そのとき)は畚(びく)が足代(あじろ)を落(おつ)こちて、泥(どろ)の上(うへ)に俯向(うつむ)けだね。其奴(そいつ)が、へい、足(あし)を生(は)やして沼(ぬま)へ駆込(かけこ)まぬが見(み)つけものだで、畜生(ちくしやう)め、此(こ)の術(て)で今夜(こんや)は占(し)めをつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
と言いてえところでおすが、宿屋の飯盛大人に出馬されては、さしずめこの三馬など勝つ術(て)はげえせん。
仇討たれ戯作 (新字新仮名) / 林不忘(著)
、こちらが思うころにひとりでに挙げさせようというとき、むかしさんざ使われていた古い術(て)なんだ
顎十郎捕物帳:13 遠島船 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼の仲間に私の探偵をどこかへ誘(おび)き出させ、私に不安を感じさせて金包を改めさそうと云うのだ。そうしてその隙を覗(ねら)って奪おうと云うのだろう。その術(て)に乗るものか。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
今迄も其の術(て)で無闇に金銭(ぜに)を遣わせたが、彼奴(あいつ)には一寸(ちょっと)した呼吸のおいやり方があるので只でもいかん、妙においやり方がある、早く云やア多勢(おおぜい)で奉(たてまつ)って一杯飲ませる
裳の褶を作るのにない術(て)を持つた女などが、何でも無いことで、とりわけ重宝がられた。袖の先につける鰭袖(はたそで)を美しく為立てゝ、其に珍しい縫ひとりをする女なども居た。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
実は、この船なんかも、マルセイユではたった十人しか残らないという騒ぎだったが、僕のような海上の古狸になると、そんなことは平気なもので、早速独特の術(て)で新規の乗組員を募集しました。
こは当楼の後ろの大薮に数年(すねん)住(すん)でいる狸の所為(しわざ)にて、毎度この術(て)で高味(うまい)ものをしてやらるると聞き、始めて化(ばか)されたと気が付(つい)て、果(はて)は大笑いをしたが、化物(ばけもの)と直接応対したのは、自分斗(ばか)りであろうと
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
防禦の術(て)なし、黒船をさして退き逃るべし
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
八五郎は店に入るといきなり、其處を片付けてゐる丁稚(でつち)の品吉の肩をポンと叩きました。誰とでも、この術(て)で懇意になる八五郎です。
好きなように引っぱりまわす術(て)を心得ている将軍の主席秘書が、例のホワンスキイ公爵の紹介状にそそのかされて、どんなに彼のために骨を折ってくれても
僕は運命の美貌のために、仮面や術(て)ばかりで暮すようになり、ほんとうということを取り失ってしまった。
美少年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
といっても、あせッて事を仕損じちゃいけませんから、しばらくは酌(さ)しつ酌されつ。そして試しに、卓のお箸(はし)を下へ落としてごらんなさい。いいえ、術(て)ですよ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何のその術(て)を食うものか、とぐっと落着いて張合った気で見れば、余りしおらしいのが癪(しゃく)に障った。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
裳(も)の襞(ひだ)を作るのに珍(な)い術(て)を持った女などが、何でもないことで、とりわけ重宝がられた。袖(そで)の先につける鰭袖(はたそで)を美しく為立てて、其に、珍しい縫いとりをする女なども居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
そして画面の付け離しには、overlap や wipe out をふんだんに使って胡魔化す術(て)を覚えたのであるが、それだけでは余り人為的な感じが出る恐れがある。
映画を作る話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「それぢや、矢張り内の者の細工ぢやないか。江の島詣りと見せかけて、その晩そつと歸つて、窓から自分の部屋に忍び込む術(て)もある」
(祖父は酸いも甘いも噛みわけた苦労人で、駄弁を弄してバツをあはせる術(て)もよく心得てゐたので、たとへ皇帝(ツァーリ)の前へ出ても決して戸惑ひするやうなことは万々なかつた)
何と、お行者(ぎょうじゃ)、未熟なれども、羽黒の小法師(こほうし)、六尺(しゃく)や一丈(じょう)の蛇(ながむし)に恐れるのでない。こゝが術(て)だ。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
弟はわたくしの術(て)に釣られて、まず自分自身の遺憾(いかん)を先に洩(もら)し、家族の一人をこういう風な目に会(あわ)しもする先生並にこの家自体の矛盾に就て恨みや歎きの口振りも混ぜて
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「と、仰っしゃりつつ、またもや彼奴の術(て)に乗るなどは」
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「旦那、一々さう旦那が仰しやつちや何にもなりません。この御女中の口占(くちうら)から、いろ/\の事を見付け出すのが、私の方の術(て)で」
さま/″\の女(をんな)を引込(ひつこ)むのを術(て)としたが、當春(たうしゆん)、天氣(てんき)麗(うらゝ)かに、桃(もゝ)の花(はな)のとろりと咲亂(さきみだ)れた、暖(あたゝか)い柳(やなぎ)の中(なか)を、川上(かはかみ)へ細(ほそ)い杖(ステツキ)で散策(さんさく)した時(とき)、上流(じやうりう)の方(かた)より柳(やなぎ)の如(ごと)く、流(ながれ)に靡(なび)いて
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
そんな術(て)で貰いものが多いのなら、まあ、やってみるがいゝのさという顔をしています。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おまけに人に取入る術(て)をちゃんと心得ているチチコフに於いておやだ。
今までに隨分そんな術(て)は見て來た八五郎ですが、此處の庭は思ひ外廣く、そのいづれの手段もいけないことまでは氣が付かない樣子です。
日々の馴れとて、わたくしは、われと黒髪をよもぎに撒き散らし、簪に野茨を挟む術(て)も、焚火の燠(おき)を河泥に混ぜて顔を隈かき絵取る術も、わざとらしいものには思わなくなりました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
金まうけと、座長の角面はさつそくに思慮(ふんべつ)した。且(か)つ誘拐(いざな)ふに術(て)は要(い)らない。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それに、これは彼女の最も名誉とすべき事柄であるが、彼女はこの連中を実に巧みにあやなす術(て)を心得てゐたので、彼等のうち誰ひとり、自分に競争者があらうなどとは夢にも考へてゐなかつた。
四回が四回とも、全く違った手でさらっておりますから、今晩はどんな術(て)でやって来るか、——そう考えただけでもぞっと寒気立ちます。
お民は此の上逆(さから)おうとはしないで、少し引き返したところの狭い横丁へ、いつものように隠れ込んだ。これはお民が京子に散歩の途中から追い払われ始めてから二三度やった術(て)である。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
この間もあの術(て)で驚かしゃあがった、尨犬(むくいぬ)め、しかも真夜中だろうじゃあねえか、トントントンさ、誰方だと聞きゃあ黙然(だんまり)で、蒲団(ふとん)を引被(ひっかぶ)るとトントンだ、誰方だね、黙(だんま)りか、またトンか
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「旦那、いちいちそう旦那がおっしゃっちゃ何にもなりません。この御女中の口占(くちうら)から、いろいろの事を見付け出すのが、私の方の術(て)で」
これ、静かにさっせえ、術(て)だ、術だてね。ものその術で、背負引(しょび)き出して、お前様天窓(あたま)から塩よ。私(わし)は手足い引捩(ひんも)いで、月夜蟹で肉(み)がねえ、と遣(や)ろうとするだ。ほってもない、開けさっしゃるな。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
四回が四回とも、全く違つた手でさらつてをりますから、今晩は何んな術(て)でやつて來るか、——さう考へただけでもぞつと寒氣立ちます。
……其(そ)の気(き)で城趾(しろあと)に根(ね)を生(はや)いて、天守(てんしゆ)と根較(こんくら)べを遣(や)らうなら、御身(おみ)は蘆(あし)の中(なか)の鉋屑(かんなくづ)、蛙(かへる)の干物(ひもの)と成果(なりは)てやうぞ……此(この)老爺(ぢい)はなか/\術(て)がある! 蝙蝠(かはほり)を刻(きざ)んで飛(と)ばせ、魚(うを)を彫(ほ)つて泳(およ)がせる代(かはり)には
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
死ぬ氣で細工をしたお關は助かつてしまつたが、この術(て)で勘兵衞を殺せば誰も自分の仕業と氣のつく者はないといふことを覺えてしまつた
自分(じぶん)で許(ゆる)す色男(いろをとこ)が、思(おもひ)をかけて屆(とゞ)かぬ婦(をんな)を、かうして人(ひと)に誇(ほこ)る術(て)は。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
「馬鹿、黙っていろ。風邪が癒(なお)ったと聞くと相手が用心するから、四五日我慢して寝ていたんだ。女房に化けるより外に術(て)があるものか」
其(そ)の術(て)で行(ゆ)かねば、業(わざ)を変(か)へて、何処(どこ)とも知(し)らず、真夜中(まよなか)にアハヽアハヽ笑(わら)ひをる、吃驚(びつくり)すると鮒(ふな)が消(き)える、——此方(こつち)も自棄腹(やけばら)の胴(どう)を極(き)めて、少々(せう/\)脇(わき)の下(した)を擽(くすぐ)られても、堪(こら)へて静(じつ)として畚(びく)を守(まも)れば
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
力も金も知恵も無い私は、命がけの恋患いでもして、お艶さんに可哀想だと思わせる外は術(て)が無かったのでございます。私は患いました。
催促の術(て)をうらがえしに、敵は搦手(からめて)へ迫って危い。
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)