)” の例文
何かしらカーッと頭に上って来るものを感じた平馬は又も両手を畳にいた。それを見ると一柳斎は急に顔色を柔らげて盃をさした。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すると、軽く膝をいて、蒲団ふとんをずらして、すらりと向うへ、……ひらきの前。——此方こなたに劣らずさかずきは重ねたのに、きぬかおりひやりとした。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それを突破して逃げる程のそれだけの勇気も出せぬので、お綾は縁側に手をいたまま、モジモジして控えるのであった。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
抜刀ぬきみさやに納め、樫棒かしぼうを持ちまして文治の脊中せなかを二つつ打ちましたが、文治は少しも動く気色けしきもなく、両手をいたまゝ暫く考えて居りました。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかし一学はまだ、膝一つ地にいていなかった。左の小手のあたりに薄い掠り傷が一点見えるだけにすぎない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
揉上もみあげの心持ち長い女の顔はぽきぽきしていた。銀杏返いちょうがえしの頭髪あたまに、白いくしして、黒繻子くろじゅすの帯をしめていたが、笹村のそこへ突っ立った姿を見ると、笑顔えがおで少しすすみ出て叮寧に両手をいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
畳に両手きたるまゝ、声はふるへて口籠くちごもりぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
というがはやいか、段に片足を上げて両手をく、裾を引いて、ばったり俯向うつむけのめった綺麗な体は、ゆわえつけられたように階子に寝た。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その玄関に打ち違えた国旗と青年会旗の下に、男とも女とも附かぬ奇妙な恰好かっこうの人間が、両手をいて土下座している。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と感付きましたから、又々銭を出してやりますと、島人は両手をき、頭を下げて喜んでりまする。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
いている手裡しゅりにかくしてつかんでいます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まあ、お千世さん、肖たってのはその事なの。……じゃ、やっぱり、気の迷だったんだよ。」とうっかりしたように色傘をく。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
万平は上框あがりかまちへヘタヘタと両手をいた。奥から一パイ飲んだらしい中禿ちゅうはげの親方が、真赤な顔をして出て来た。青い筋が額にモリモリと浮上っていた。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と両手をいて居ります。
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
五ツ紋の青年わかものは、先刻さっき門内から左に見えた、縁側づきの六畳にかしこまって、くだんの葭戸を見返るなどの不作法はせず、うやうやしく手をいて
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ヘエ」と云いながら私は手をいて黙って見ておりますとうしろからその地方の富豪でBという人が、「C未亡人の処に素敵な俊寛の面がある」と耳打ちをしました。
所感 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、早瀬は人間が変ったほど、落着いて座に返って、おもむろ巻莨まきたばこを取って、まだ吸いつけないで、ぴたりと片手を膝にいた、肩がそびえた。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
顔色が真青になって、唇の色まで無くなった……と見るうちに、眼を一パイに見開いて、私の顔を凝視みつめながら、よろよろと、うしろに退さがって寝台の上に両手をいた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と疲れたさまにぐたりと賽銭箱のへりに両手をいて、両の耳に、すくすくと毛のかぶさった、小さな頭をがっくりと下げながら
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
見ると彼女は蛇紋石じゃもんせきの流し場に片手をいたまま、横坐りをして、唇をシッカリと噛んでいた。
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
文金ぶんきん高髷たかまげふっくりした前髪まえがみで、白茶地しらちゃじに秋の野を織出した繻珍しゅちんの丸帯、薄手にしめた帯腰やわらかに、ひざを入口にいて会釈えしゃくした。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
利三郎氏も内心翁を一介の田舎能楽師と思っていたらしいが、無事に一調が済んでお次の間に退くと利三郎氏は余程驚いたものと見えて、直ぐさま翁の前に両手をいて
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
と云うと、のめずって、低い縁へ、片肱かたひじかけたなり尻餅をいたが、……月明りで見るせいではござらん、顔の色、真蒼まっさおでな。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
万平は進み寄って、警官の前の机に両手をいて繰返し繰返しお辞儀をしては汗を拭った。
芝居狂冒険 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、すぐその障子の影へ入れる、とすぐ靴の紐をかがっていた洋装のが、ガチリと釣銭を衣兜かくし掴込つかみこんで、がっしりした洋傘こうもりいて出て行く。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ハイ。すっかり……」と妻木君は女のように、しとやかに三つ指をいた。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……おしめもふんどしも一所に掛けた、路地の物干棹ものほしざおひっぱずすと、途端みちばたの与五郎のすそねらって、青小僧、蹈出ふみだす足とく足の真中まんなかへスッと差した。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
けれどもゴンクール氏は遂に口を利く事が出来なかった。ただ、片手で髪毛を掻き乱し、頬を撫でて犬のように舌をわななかしたと思うと、それっきり両手をいてぐったりとうなだれてしまった。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
汀のお珊は、つまをすらりと足をちょいと踏替えた。奴島田やっこしまだは、洋傘こうもりを畳んでいて、直ぐ目の下を、前髪に手庇てびさしして覗込のぞきこむ。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云ううちに私は立上って、卓子テーブルの端に両手をいてお辞儀をした。しかし正木博士は平気でいた。お辞儀を返そうともしないまま悠々と椅子に踏反ふんぞり返って、葉巻の煙を思い切り高々と吹上げた。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
両手をいたまま、がッくりとうなずくと、糸を引いて、ばたりと畳へ、ふすまにかくれて取乱した、衣紋えもんをこぼれてはらりと開く。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
筆者は上り框へ両手をいた。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
円い透硝子すきがらすの笠のかかった、背の高い竹台の洋燈ランプを、杖にく形に持って、母様かあさん居室いまから、と立ちざまの容子ようすであった。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こゝおいかくおほすべきにあらざるをつて、ひざいて、前夫ぜんぷ飛脚ひきやくつて曳出ひきだすとともに、をつと足許あしもとひざまづいて、哀求あいきうす。いは
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と女房は正面へ居直って、膝にちゃんと手をいて、わざと目を円くしながら、円々ちい括頤くくりあごで、うなずくように襟をおさえて
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もう船が岩の間を出たと思うと、尖ったへさきがするりとすべって、波の上へ乗ったから、ひやりとして、胴のへ手をいた。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さまで重荷ではないそうで、唐草模様の天鵝絨びろうど革鞄かばんに信玄袋を引搦ひきからめて、こいつを片手。片手に蝙蝠傘こうもりがさきながら
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
若手代は、膝へ手をいたなり、中腰でね、こう困ったらしく俯向うつむいたッきり。女連は、芝居に身がってことばも掛けず。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、横へ取ったは白鬼はっきの面。端麗にして威厳あり、眉美しく、目の優しき、そのかんばせ差俯向さしうつむけ、しとやかに手をいた。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
んで下すった礼を言うのに、ただ御機嫌うとさえ言えばいと、父から言いつかって、枕頭まくらもとに手をいて、其処そこへ。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夫人、するりと膝をずらして、後へ身を引き、座蒲団の外へ手の指をそらしてくと、膝をすべった桃色の絹のはんけちが、つま折端おりはしへはらりとこぼれた。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
地蔵尊ぢざうそんが、まへはうから錫杖しやくぢやういたなりで、うしろつゞいたわたし擦違すれちがつて、だまつてさかはうもどつてかるゝ……と案山子かゝしもぞろ/\と引返ひきかへすんです。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
沢は思はず、ひざまずいて両手をいた。やがて門生もんせいたらむとする師なる君の著述を続刊する、皆名作の集なのであつた。
貴婦人 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ゆめからめたおもひで、あつぼつたかつたかほでた、ひざいて、判然はつきり向直むきなほつたときかれいままでの想像さうざうあまりなたはけさにまたひとりでわらつた。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
はては丘のごとく、葉をかさねた芭蕉の上に、全身緑の露を浴び、白刃に青きしずくを流して、逆手さかていてほっと息する。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時に、妙法蓮華経薬草諭品みょうほうれんげきょうやくそうゆほん第五偈だいごげなかばを開いたのを左のたなそこささげていたが、右手めていた力杖ステッキを小脇に掻上かいあ
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
和尚をしやうが、わたしまへこしかゞめて、いたあかざ頤杖あごづゑにして、しろひげおよがせおよがせ、くちかないで、身體中からだぢうをじろ/\と覗込のぞきこむではござんせんか。
みつ柏 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と、琴曲の看板を見て、例のごとく、帽子もかぶらず、洋傘こうもりいて、据腰すえごしに与五郎老人、うかうかと通りかかる。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聞きも果てず、満面に活気を帯びきたった竜田は、飜然ひらりと躍込み、二人のなかと立って、卓子テイブルに手をいたが、解けかかる毛糸の襟巻の端を背後うしろねて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と柳の眉の、おもて正しく、見迎えてちょっと立直る。片手もほっそり、色傘を重そうにいて、片手に白塩瀬しろしおぜ翁格子おきなごうし、薄紫の裏の着いた、銀貨入を持っていた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)