“巣(す)” の例文
ついに、彼の目の睫毛と睫毛との間に小さな一匹(ぴき)の蜘蛛(くも)が巣(す)をかけるに及んで、彼はようやく自信を得て、師の飛衛にこれを告げた。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
そうだ、これを弟(おとうと)に見(み)せてやろう。そして、りこうなはちが、どうして巣(す)を造(つく)り、また子供(こども)を育(そだ)てるのに苦心(くしん)するかを教(おし)えてやろう。
ある夏の日のこと (新字新仮名) / 小川未明(著)
ところが、ふたりは人殺(ひとごろ)しの巣(す)のなかにとびこんだのです。ですから、くらやみにまぎれて、十二人の人殺しどもがやってきました。
かっぽじって、よっくきけよ。かく申すそれがしは、トビの巣(す)文字山(もじやま)の初陣(ういじん)より、かっておくれをとらぬ、大久保彦左ヱ門忠教——
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
そこにコウノトリが巣(す)をつくっていました。ちょうどいまコウノトリがその上に立って、くちばしをガチャガチャやっていました。
しかもこの吊り橋を、天井の偉大さにくらべると、まるで講堂の天井に、小さい蜘蛛(くも)の巣(す)がかかっているほどにしか見えなかった。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
蛙(かへる)の肉(にく)を食(た)べに來(き)た蜂(はち)は餌(え)をくはへて巣(す)の方(はう)へ飛(と)んで行(い)きますが、その小(ちひ)さな蛙(かへる)の肉(にく)についた紙(かみ)の片(きれ)で巣(す)の行衛(ゆくゑ)を見定(みさだ)めるのです。
ふるさと (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
白羽(しらは)の箭が立った若者には、勇んで出かける者もある。抽籤(くじ)を遁(のが)れた礼参りに、わざ/\鴻(こう)の巣(す)在(ざい)の何宮さんまで出かける若者もある。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎、徳冨蘆花(著)
漸々(だん/\)大宮の宿(しゅく)を離れて、桶川(おけがわ)を通り過ぎ、鴻(こう)の巣(す)の手前の左は桑畠で、右手の方は杉山の林になって居ります処までまいりました。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
右手(めて)に、名刀般若丸(はんにゃまる)を、ひだりの手では、地や蜘蛛(くも)の巣(す)をなでまわしながら、ソロリと、八神殿の床下(ゆかした)をはいだしてきた者がある。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
露にぬれた牧場の草を踏み分け、蜘蛛(くも)の巣(す)と棘(いばら)を払ひのけながら、メンデルの峠へ通じる自動車道の、とあるカーヴへ姿を現はしました。
けむり(ラヂオ物語) (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
「二階(かい)に寝(ね)ればねずみがさわぐ。臼(うす)の中(なか)はくもの巣(す)だらけ。釜(かま)の中は温(あたた)かで、用心(ようじん)がいちばんいい。そうだ、やっぱり釜(かま)の中に寝(ね)よう。」
山姥の話 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
蜂(はち)の巣(す)をつついたような大さわぎになった。大きな子供たちがどたばたかけだしていったあとで、女の子はわあわあ泣きだした。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
みすみす一粒の芥子種(からしだね)が春陽に乗じて生長するがごとく、ついに空中を舞うの燕雀(えんじゃく)さえもその枝に巣(す)くうに至るの勢いとなれり。
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
卯平(うへい)は勘次(かんじ)との間(あひだ)は豫期(よき)して居(ゐ)た如(ごと)く冷(ひやゝ)がではあつたが、丁度(ちやうど)落付(おちつ)かない藁屑(わらくづ)を足(あし)で掻(か)つ拂(ぱ)いては鷄(にはとり)が到頭(たうとう)其(そ)の巣(す)を作(つく)るやうに
土 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あんなところに蜂(はち)の巣(す)をかけられては、味噌部屋(みそべや)へ味噌(みそ)をとりにゆくときにあぶなくてしようがないということを話(はな)しました。
牛をつないだ椿の木 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
コウノトリに二、三秒(びょう)おくれて、アッカもグリンミンゲ城(じょう)のコウノトリの巣(す)につきました。見れば、その巣は大きくて、りっぱなものです。
寢(ね)しなに女連(をんなれん)のこれが問題(もんだい)になつた。ガラスを通(とほ)して、ふすまが松葉越(まつばご)しに外(そと)から見(み)えよう。友禪(いうぜん)を敷(し)いた鳥(とり)の巣(す)のやうだ。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
螻蟻(ろうぎ)の一念は天へも通(つう)ずとの俚諺(りげん)又宜(むべ)なるかな大岡殿此度(このたび)幸手宿三五郎妻(つま)文(ふみ)の申立を聽(きか)れ武州鴻(こう)の巣(す)鎌倉屋金兵衞方へ差紙(さしがみ)を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
また、りすの巣(す)を集めたり、めずらしい植物を採集(さいしゅう)してきては、兄さんたちにその名をきいて、たくわえておきました。
ジェンナー伝 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
大宮から上尾(あげお)へ二里——上尾から桶川(おけがわ)へ三十町——桶川から鴻(こう)の巣(す)へ一里三十町——鴻の巣から熊谷へ四里六町四十間。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
笑ひ娯み、笑ひ怠るものは、泣き号び泣きくるしむ者となるべきが自然の道理である。鳥(とり)其巣(す)を焚かれたるが如くなつて、大なる凶を得べきである。
震は亨る (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
熊谷(くまがい)のさる豪農に某という息子があったが、医者になりたいという志願であったから、鴻(こう)の巣(す)の某家に養子に与(や)った。
取り交ぜて (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
商人たちは、そこを待ちかまえていて、わしを巣(す)から追い出して、肉の中のダイヤモンドをとるという話であります。
台所の流しの下には、根笹(ねざさ)や、山牛蒡(やまごぼう)のような蔓草(つるくさ)がはびこっていて、敷居(しきい)の根元は蟻(あり)の巣(す)でぼろぼろに朽(く)ちていた。
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
主従蜂にさされて顔がはれたものだから、高谷君と細井君が巣(す)を見にきた。その日夕方までうちくつろいだのが始まりで、以来学校では始終一緒(しょ)だ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
巣(す)の中(なか)で、胸毛(むなげ)にふかく頸(くび)をうづめた母燕(おやつばめ)が眠(ねむ)るでもなく目(め)をつぶつてじつとしてゐると雛(ひな)の一つがたづねました。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
かれ曙立(あけたつ)の王に科(おほ)せて、うけひ白さしむらく一〇、「この大神を拜むによりて、誠(まこと)に驗(しるし)あらば、この鷺(さぎ)の巣(す)の池一一の樹に住める鷺を、うけひ落ちよ」
○天保三年辰四月、我が住(すむ)塩沢の中町(なかまち)に鍵屋某が家のほとりに喬木(たかきき)あり。此樹(き)に烏(からす)巣(す)をむすび、雛(ひな)梢々(やゝ)頭(かしら)をいだすころ、巣のうちに白き頭(かしら)の鳥を見る。
彼(かれ)はちょうど、そうぞうしい蜂(はち)の巣(す)のようだった。しかし誰(たれ)もそれに気づかなかった。彼自身(かれじしん)も気(き)づかなかった。
ジャン・クリストフ (新字新仮名) / ロマン・ロラン(著)
白色をしており、その形態は淡い扁平なもので、時には全天を覆い単に乳白色を示すこともあり、また時には乱れた蜘蛛(くも)の巣(す)状の組織を示すこともある。
雪 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
其頃(そのころ)武内(たけのうち)は富士見町(ふじみちやう)の薄闇(うすぐら)い長屋(ながや)の鼠(ねづみ)の巣(す)見たやうな中(うち)に燻(くすぶ)つて居(ゐ)ながら太平楽(たいへいらく)を抒(なら)べる元気が凡(ぼん)でなかつた
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
この鳥(とり)は食物(しよくもつ)の中(なか)で不消化(ふしようか)なものがあれば嗉嚢(そのう)の中(なか)でまるめて、口(くち)から吐(は)き出(だ)すから、巣(す)の下(した)には、かならず、さうした團子(だんご)のような塊(かたま)りが積(つも)つてゐます。
森林と樹木と動物 (旧字旧仮名) / 本多静六(著)
「ゆけ、おまえたちはおまえたちの巣(す)に帰って自由に幸福であれ。ぼくらもまたいまぼくらの故郷(こきょう)へ帰るのだ」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
それでも母樣(かあさま)私(わたし)は何處(どこ)へか行(ゆ)くので御座(ござ)りましやう、あれ彼處(あすこ)に迎(むか)ひの車(くるま)が來(き)て居(ゐ)まする、とて指(ゆび)さすを見(み)れば軒端(のきば)のもちの木(き)に大(おほ)いなる蛛(くも)の巣(す)のかゝりて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
子供たちは秋になるとそれ等の実を採りに来るので、それ等のある場所を殆んど暗記していた。それからまた小鳥の巣(す)のある場所を私に教えてくれたりした。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
我よく汝が己の光の中に巣(す)くひて目よりこれを出すをみる、汝笑へば目煌(きら)めくによりてなり 一二四—一二六
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
長州鷹(たか)の巣(す)の木島家までも手を廻したので、心弱い里方の父もその応対に困り果てましたが、その時祖母が
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「まあ、よく、あとで考えてごらん。市蔵なんてそんなにわるい名じゃないよ。」鷹は大きなはねを一杯(いっぱい)にひろげて、自分の巣(す)の方へ飛んで帰って行きました。
よだかの星 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
もう日がとっぷりとくれて、巣(す)に帰る鳥が飛び連れてかあかあと夕焼けのした空のあなたに見えています。
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
おかあさんは海岸の柳(やなぎ)の木陰に足をとめましたが、その柳の幹と枝とにはさまった巣(す)が、風のまにまに柳がなびくにつれて、ゆれ動いて小鳥らを夢(ゆめ)にさそいます。
ウルイ沢・鷹(たか)の巣(す)山の類の採取物によったものまで、幾つかの親しみの差等はあるが、とにかくに人が生活の交渉に基いて、入用のあるほどずつ名を設けていたお蔭に
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「四、五年の間、あの寺を空(あ)き家(や)にしといたので、その間に鬼どもが巣(す)をくったのだろう。」
鬼退治 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
予(わし)はまた別(べつ)の方(はう)へ往(い)て梯子(はしご)を取(と)って來(こ)ねばならぬ、其(その)梯子(はしご)でお前(まへ)の戀人(こひびと)が、今宵(こよひ)暗(くら)うなるが最後(さいご)、鳥(とり)の巣(す)へ登(のぼ)らッしゃるのぢゃ。予(わし)は只(たゞ)もう齷齬(あくせく)とお前(まへ)を喜(よろこ)ばさうと念(おも)うて。
これこれテン太郎 一寸(ちよつと)まて きのふからな お父さんの髯(ひげ)にコオロギが巣(す)をつくつたんぢや
その種子には肉阜(にくふ)(カルンクル)と呼ぶ軟肉(なんにく)が着(つ)いていて、これが蟻(あり)の食物になるものだから、その地面に転(ころ)がっている種子を蟻(あり)が見つけると、みなそれをわが巣(す)に運び入れ
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「お六坊、暫らくだったなア。こんなところに巣(す)ウ食(く)っていようたあお釈迦さまでも——」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
『巧(うま)い事(こと)云(い)つてら!』と云(い)ひ捨(す)てゝ鳩(はと)は再(ふたゝ)び巣(す)に落着(おちつ)きました、愛(あい)ちやんは首(くび)が枝(えだ)から枝(えだ)に絡(から)みさうなので、出來(でき)るだけ森(もり)の中(なか)に屈(かゞ)んでゐましたが、歩(ある)く時(とき)には屡々(しば/\)足(あし)を停(と)めて
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
社殿(しゃでん)の床下からはい出してきたばかりで、頭には蜘蛛(くも)の巣(す)までひっかかっていました。
ひでり狐 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
痼疾(こしつ)のように、吉良兵曹長の心に巣(す)くう何物かが、彼をかり立てているようであった。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)