鼠小僧ねずみこぞう)” の例文
これは勿論国技館の影の境内けいだいに落ちる回向院ではない。まだ野分のわきの朝などには鼠小僧ねずみこぞうの墓のあたりにも銀杏落葉いちょうおちばの山の出来る二昔前ふたむかしまえの回向院である。
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
鼠小僧ねずみこぞうもそれであり、木鼠小僧のように、人名辞書にまで何ぺージか費やされているものもある。日本左衛門もそれであり、雲切仁左衛門もそれである。
江戸の昔を偲ぶ (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「その泥棒で思い出した。噂に高い鼠小僧ねずみこぞう、つかまりそうもありませんかな?」ふと主人あるじはこんな事をいった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
家構が古い形だけに、児雷也じらいやとか鼠小僧ねずみこぞうとか旧劇で見る義賊のような空想に過ぎない。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
鼠小僧ねずみこぞうの住んでいた、三光新道のクダリに、三光稲荷いなりのあったことを書きおとした。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
花川戸はなかわど助六すけろく鼠小僧ねずみこぞう次郎吉じろきちも、或いはそうだったのかも知れませんね。
十五年間 (新字新仮名) / 太宰治(著)
と云つたかと思ふと、市兵衛は煙管で灰吹きを叩いたのが相図のやうに、今までの話はすつかり忘れたと云ふ顔をして、突然鼠小僧ねずみこぞう次郎太夫じろだいふの話をしやべり出した。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
祖母が言ったことがある、あの職人は、鼠小僧ねずみこぞうによく似ていると——鼠小僧は神田和泉町いずみちょうにすんでいたが——区はちがっても和泉町は近かった——祖母はよく見て知っていたといった。
僕等は読経どきやうの声を聞きながら、やはり僕には昔馴染なじみの鼠小僧ねずみこぞうの墓を見物に行つた。墓の前には今日こんにちでも乞食こじきが三四人集つてゐた。が、そんなことはどうでもい。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
鼠小僧ねずみこぞうの家は、神田和泉町いずみちょうではなく、日本橋区和泉町、人形町通り左側大通りが和泉町で、その手前の小路が三光新道、向側——人形町通りを中にはさんで右側大通りが堺町、およびがくや新道
鼠小僧ねずみこぞう治郎太夫ぢろだいふの墓は建札たてふだも示してゐる通り、震災の火事にも滅びなかつた。赤い提灯ちやうちん蝋燭らふそく教覚速善けうかくそくぜん居士こじがくも大体昔の通りである。もつとも今は墓の石を欠かれない用心のしてあるばかりではない。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)