首桶くびおけ)” の例文
家康は本多佐渡守正純ほんださどのかみまさずみに命じ、直之の首を実検しようとした。正純は次ぎのに退いて静に首桶くびおけふたをとり、直之の首を内見した。
古千屋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なぜなら、まもなく、たくさんな僧侶がここに立って、読経をあげ、首はていねいに首桶くびおけに処理して、近くの真光寺の内へささげて行ってしまったからだ。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
するとお供の者がかねて江戸を出発する時から用意してきた首桶くびおけを静々と持って現れる。夢酔が差料さしりょうをとって
安吾史譚:05 勝夢酔 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
本陣の小忰こせがれというところから、宗太は特に問屋の九郎兵衛に許されて、さも重そうにその首桶くびおけをさげて見た。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
包を開く、首桶くびおけ。中より、色白き男の生首を出し、もとどりをつかんで、ずうんと据う。
天守物語 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
陣笠じんがさをかぶった因州の家中の付き添いで、野尻宿の方から来た一つの首桶くびおけがそこへ着いた。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
同時に、そのかたわらのもう一人、瞳を返して、三造は眉をひそめた。まさしく先刻のばばらしい。それが、黒い袖のゆき短かに、しわの想わるる手をぶらりと、首桶くびおけか、骨瓶こつがめか、風呂敷包を一包ひとつつみ提げていた。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
『ア、そうか。……首桶くびおけに入っていても、分るかなあ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうちの三百五十三名が前後五日にわたって敦賀郡松原村の刑場でられた。耕雲斎ら四人の首級は首桶くびおけに納められ、塩詰めとされたが、その他のものは三げん四方の五つの土穴の中へ投げ込まれた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)