飯蛸いいだこ)” の例文
すべては、小ぢんまりとしていたが、季節の飯蛸いいだこのように、充実している。階段を上るとき電話が引かれているのも見逃さなかった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
むくりと砂を吹く、飯蛸いいだこからびた天窓あたまほどなのを掻くと、砂をかぶって、ふらふらと足のようなものがついて取れる。頭をたたいて
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ほかの者のぜんには酢味噌すみそ飯蛸いいだこ海鼠なまこなどがつけられていて、大きな飯櫃めしびつの山がみるみるくずされていた。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
明治の釣師が知らなかつた飯蛸いいだこやダボハゼ釣りなどが、今では釣りの一項目となり、南アルプスの岩魚いわな、琵琶湖のヒガイ、日光の鱒が、釣徒の釣心をそそるやうになつて来た。
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
飯蛸いいだこより少し大きなものだ。漁師は、これを赤蛸と称するのだと説明した。
鯛と赤蛸 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
筑前では飯蛸いいだこの九足あるは蛇化という。
飯蛸いいだこの寺を持つべき顔もなし 芭蕉
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
不漁つづきで、海鼠なまこ飯蛸いいだこなどの名産もあまり口へ入らないし、落着いて勉強もできないし、ことに家族の中に交っていると、きゅうに歳を取ったような気持になるのが厭だった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
山車だしに載せてかみしもきもしまいし、あの、おいらんと渾名あだなのある海豚いるかを売ればといって、身を切って客に抱かせもしないであろうが、飯蛸いいだこなぞもそうである……栄螺さざえ黄螺ばい、生の馬刀貝まてがいなどというと
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)