風趣おもむき)” の例文
見れば木立も枯れ/″\、細く長く垂れ下る枝と枝とは左右に込合つて、思ひ/\に延びて、いかにも初冬の風趣おもむきあらはして居た。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
やみ夜更よふけにひとりかへるわたぶね殘月ざんげつのあしたに渡る夏の朝、雪の日、暴風雨あらしの日、風趣おもむきはあつてもはなしはない。平日なみひの並のはなしのひとつふたつが、手帳のはしに殘つてゐる。
佃のわたし (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
然し深い風趣おもむきに乏しい——起きたり伏たりして居る波濤なみのやうな山々は、不安と混雑とより外に何の感想かんじをも与へない——それにむかへば唯心が掻乱かきみだされるばかりである。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
一木いちぼく何十両、一石いっせき数百両なぞという——無論いまより運搬費にかかりはしたであろうが贅沢ぜいたくを競った。その地面にこけをつけるには下町の焼土では、深山、または幽谷の風趣おもむきを求めることは出来ない。
見渡す限り田畠は遠く連ねて、けやきもりもところ/″\。今は野も山も濃く青い十一月の空気を呼吸するやうで、うら枯れた中にも活々いき/\とした自然の風趣おもむきく表して居る。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)