顔見世かおみせ)” の例文
染之助の居る一座は、十月興行をお名残なごりに上方へ帰って、十一月の顔見世かおみせ狂言からは、八代目団十郎の一座がかかると噂が立ちました。
ある恋の話 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
かんを開けば図はづ武家屋敷長屋の壁打続きたる処にして一人ひとりの女窓のほとりにたたず頬冠ほおかむりせし番付売ばんづけうりを呼止めて顔見世かおみせの番付あがなふさまを描きたり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
朔日ついたち顔見世かおみせは明けの七つどきでございますよ。太夫たゆう三番叟さんばそうでも御覧になるんでしたら、暗いうちからお起きにならないと、間に合いません。」
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とおざかった時分じぶん、こんどは、ドンコ、ドンコと、たいこをたたいて、まちなかを、旅芸人たびげいにんをのせた、人力車じんりきしゃが、れつをつくって、顔見世かおみせに、まわりました。
風七題 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「太夫身化粧ができます間、一応は当座曲独楽きょくごまのお目通り、はアい、つかいまする独楽こま顔見世かおみせ——」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
若い蘇峰そほうの『国民之友』が思想壇の檜舞台ひのきぶたいとして今の『中央公論』や『改造』よりも重視された頃、春秋二李の特別附録は当時の大家の顔見世かおみせ狂言として盛んに評判されたもんだ。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
それから一松斎は、満更まんざら、芸道にもくらからぬ言葉で、江戸顔見世かおみせの狂言のことなど、訊ねるのだったが、ふと、やや鋭い、しかし、静かさを失わぬ目つきで、雪之丞を見詰めると
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
が、去年霜月、半左衛門の顔見世かおみせ狂言に、東から上った少長しょうちょう中村七三郎は、江戸歌舞伎の統領として、藤十郎と同じくやつしの名人であった。
藤十郎の恋 (新字新仮名) / 菊池寛(著)