雑作ぞうさく)” の例文
旧字:雜作
その網目の中に二等三等の三角網を張り渡し、それに肉や皮となり雑作ぞうさくとなる地形を盛り込んで行くのである。この一等三角点にはみんな高い山の頂上が選ばれる。
地図をながめて (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
よくまあ、昼日中ひるひなか、その面をさげて大江戸の真中が歩けたもんだ、口惜くやしいと思ったら、親許おやもとへ持ち込むんだね、親許へ持ち込んで、雑作ぞうさくをし直してもらって出直すんだ
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
同時にその顔——何も考えていない、全く落ちつき払ったその顔が、大変気高く見える。眼が下っていても、鼻が低くっても、雑作ぞうさくはどうあろうとも、非常に気高く見える。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
何時自分が東京を去ったか、何処いずこを指して出たか、何人なにびとも知らない、母にも手紙一つ出さず、建前が済んで内部うち雑作ぞうさくも半ば出来上った新築校舎にすら一べつもくれないで夜ひそかに迷い出たのである。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
涼しく澄みとおった双眸そうぼう、鼻も口も耳も頬も、雑作ぞうさくのすべてが選りぬきの資材と極上の磨きでととのえられている、しかも潤沢な水分と弾力精気に充満した肉躰、駘蕩たいとうとしてしかも凛然りんぜん典雅なる風格
ただし普通なだけに、これぞと取り立てて紹介するに足るような雑作ぞうさくは一つもない。普通と云うと結構なようだが、普通のきょく平凡の堂にのぼり、庸俗の室にったのはむしろ憫然びんぜんの至りだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
余は余の顔の雑作ぞうさくに向って加えられたこの物理的もしくは美学的の批判が、優に余の未来の運命を支配するかのごとく容易に説き去った和尚を少しおかしく感じた。そうしてなるほどと答えた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)