あらわ)” の例文
それが洗錬された社交性というのであろうか、いかなる場合にも妻は、これ以上の怒りというものは内に含んで決してあらわに現さなかった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
家厳かげんが力をつくして育し得たる令息は、篤実一偏、ただめいこれしたがう、この子は未だ鳥目ちょうもくの勘定だも知らずなどと、あらわうれえてそのじつは得意話の最中に
学者安心論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
昨夜も昨夜とて小児の如くに人を愚弄して、あらわに負けてひそかかえり討に逢わした昇に、不倶戴天ふぐたいてん讎敵あだ、生ながらその肉をくらわなければこの熱腸が冷されぬと怨みに思ッている昇に
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
けれど又其の怒りをあらわに現わすのも秀子でない、秀子以下だ、秀子は再び何にも云わぬ、唯静かに手燭を取り上げた、余は今更熱心の色を示されもせず唯当り前に「ドレ私が送りましょう」と云った
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)