陳弁ちんべん)” の例文
旧字:陳辯
不案内な山地の苦戦とか、兵糧の欠乏とか、そんな平凡ないいわけに、努めたあとで「しかし——」と、彼はまた、彼らしく陳弁ちんべんした。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
萩之進を窮命きゅうめいどうように押しこめて詮議せんぎをなさいましたが、もとより根もないことでございますから、陳弁ちんべんいたしようもない。
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
佐助も気の毒に思い恐る恐るそのむねを取り次いで陳弁ちんべんするとにわかに顔の色を変えて月謝や付け届けをやかましく云うのを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
彼は、陳弁ちんべんに努めた。だが、彼等は、なかなか信用しなかった。彼は、思い出して、二冊の貯金帳を出して見せた。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
春月亭のお内儀のまえに手をついて、陳弁ちんべんし謝罪しなければならない父、——思っただけで、彼は身ぶるいした。
次郎物語:03 第三部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
おどろおどろとして何ごとかを陳弁ちんべんする老女のごとき声が、酔いれた左膳の耳へ虫の羽音のようにひびいてくる。かれは、隻眼をり開けて膝元の乾雲を凝視した。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「ただ今、師の御房は、旅先にあってこの草庵にはおりませぬ」と、ひたすら陳弁ちんべんに努めているのは、性善坊であるらしい。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう口を揃えて二人は交々こもごも陳弁ちんべんに努めた。
丹羽、滝川などの世馴れた老巧ろうこうをもってしても、途方にくれる、陳弁ちんべんにつとめる、そしてすところを知らないだろう。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、時の役人——尾州家の者も、異教禁令の色眼鏡いろめがねをもって調べているので、そのばてれんが夜光の短刀について、縷々るる陳弁ちんべんをつくしているにもかかわらず
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)