酔漢よいどれ)” の例文
それは酔漢よいどれの声でした。静な雪の夜ですから、濁った音声おんじょうはげしく呼ぶのが四辺そこいらへ響き渡る、思わず三人は顔を見合せました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
また彼が受けてる世間の尊敬は、酔漢よいどれの不品行を他人に忘れさせるのに役だたないではなかった。また彼は一家の貧しい暮しを助けてくれた。
酔漢よいどれのように呶鳴る味噌松の声が、まだここまで聞えてくる。ぴしゃり、というあの音は、鳶の一人が頬でも張ったか——。
喧嘩もすんで、酔漢よいどれどもがやっと二階へ引揚げたのは夜の八時ごろ、いずれも泥のようになってすぐ寝た。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
両方の肱や膝は大きく破れたり泥まみれになったりして、ボタンが二つ程ちぎれて、カラーが右の肩にブラ下っている姿は恰度ちょうど酔漢よいどれと乞食との混血児あいのこを見るようである。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「いや、いや、私が聞いただけでも、何か、こうわざと邪慳じゃけんに取扱ったようで、対手あいてがその酔漢よいどれいたわるというだけに、黙ってはおられません。何だか寝覚ねざめが悪いようだね。」
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
黙って額の汗を拭いて、また酔漢よいどれの方を覗いた。酔漢は巡査に片手を取られたままのそりのそり歩いていった。黒眼が上眼瞼に引きつけて、じっと前方を睥んでいるようであった。
田原氏の犯罪 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
地の青馬にうちまたがっている酔漢よいどれを見たか?
ルバイヤート (新字新仮名) / オマル・ハイヤーム(著)
内心に渦まく殺気を持てあまして、その一本腕がうずうずするとき、左膳はよく、こうした酔漢よいどれのような態度をとるのだ。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わしはどんなことをしたむくいで、あんな酔漢よいどれを息子に持ったのか! わしのような生活をし、万事に不自由な目を忍んだのも、むだな骨折りだったのか!……だがお前は
かあねえだ。もの、理合りあいを言わねえ事にゃ、ハイ気が済みましねえ。お前様も明神様お知己ちかづきなら聞かっしゃい。老耆おいぼれてんぼうじじいに、若いものの酔漢よいどれ介抱やっかいあに、出来べい。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)