鄙歌ひなうた)” の例文
山やまは雲のとばりをかかげ、湖辺の灌木はさながら乙女となって朝の姿をうつし、梢にはなに鳥かきてまろらかな鄙歌ひなうたをうたう。
島守 (新字新仮名) / 中勘助(著)
調子を合わす三味線の音がすると、清らかな女の声でうたうのが手に取るように聞こえる。調子はずれの鄙歌ひなうたが一度に起こってさらをたたく音もする。
竜舌蘭 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
生命いきあるうちに一度、ただ一度あいたしと思うにつけて、さきに聞きつる鄙歌ひなうたのあいにく耳に響き、かの百姓夫婦のむつまじく語れる面影は眼前めさきに浮かび
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
給士しゃく一人して立ち働き、一坐のざわめきに暫時悲しさを紛らしぬ、一坐の歓娯も彼が不運を予言するもののごとく何となく打ち湿り、互いに歌う鄙歌ひなうたもしばしば途切れ
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
法水さん、わしならあの三叉箭ボールが、裏庭の蔬菜園から放たれたのだと云いますがな。何故なら、今は蕪菁かぶら真盛まっさかりですよ。矢筈やはずは蕪菁、矢柄やがらよし——という鄙歌ひなうたを、たぶん貴方は御存じでしょうが
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
その官能的な鄙歌ひなうたを叱りつけてから、ゾッとその寒さを心頭から感じて、あわてて枕もとの風呂敷を取って、その頭からかぶせてしまい、そうして道庵並みに軽い旅情というようなものに動かされて
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鄙歌ひなうたのふしおもしろく
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
鄙歌ひなうたいうにうたひなば
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
このごろ見たうちで、アメリカの川船を舞台としたロマンスの場面中に、船の荷倉に折り重なって豚のように寝ているニグロの群れを映じてそれにものうげに悲しい鄙歌ひなうたを歌わせるのがあった。
映画時代 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)