足袋屋たびや)” の例文
その中に、もう一方の、隣家の足袋屋たびやのお神さんがいて、時計屋に応援した。そして、彼女も何も物音を聞かなかったむね陳述した。
D坂の殺人事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私は肴町さかなまちを通るたびに、その寺内へ入る足袋屋たびやの角の細い小路こうじの入口に、ごたごたかかげられた四角な軒灯の多いのを知っていた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その外今川橋いまがわばし飴屋あめや石原いしはら釘屋くぎや箱崎はこざきの呉服屋、豊島町の足袋屋たびやなども、皆縁類でありながら、一人として老尼の世話をしようというものはなかった。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
足袋屋たびやさんに聞いて歩いたのですが、さあ、あれは、いま、と店の人たち笑いながら首を振るのでした。
おしゃれ童子 (新字新仮名) / 太宰治(著)
銀子は唐物屋とうぶつやや呉服屋、足袋屋たびやなどが目につき、純綿物があるかとのぞいてみたが、一昨年草津や熱海あたみへ団体旅行をした時のようには、品が見つかりそうにもなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と、ヒョイッと見ると向側の足袋屋たびやの露地の奥から、変なものが、ムクムクとあがる。アッ、けむだ。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
その頃神楽坂かぐらざか辰井たついと云う古い足袋屋たびやがあって、そこに、町子と云う美しい娘がいた。
晩菊 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
前の足袋屋たびやから天ぷら、大家おおやから川魚の塩焼きを引っ越しの祝いとして重箱に入れてもらった。いずれも「あいそ」といううろこのあらい腹の側のあかい色をした魚で、今が利根川でとれるせつだという。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
「どうも咳嗽せきの出るのが変だと思ってました」と隣りの足袋屋たびや細君さいくんが言った。「どうも肺病だッてな、あの若いのに気の毒だなア。話好きなおもしろい人だのに……」と大家おおや主人あるじ老妻かみさんに言った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)