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賓人
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まれびと
『お
前は
亞尼とか
云つたねえ、
何の
用かね。』と
私は
靜かに
問ふた。
老女は
虫のやうな
聲で『
賓人よ。』と
暫時私の
顏を
眺めて
居つたが
けれど
賓人よ、
私はよく
存じて
居ります、
今夜の
弦月丸とかで
御出發になつては、
奧樣も、
日出雄樣も、
决して
御無事では
濟みませんよ。
あゝ、
不吉の
上にも
不吉。
賓人よ、
私の
心の
千分の
一でもお
察しになつたら、どうか
奧樣と
日出雄樣を
助けると
思つて、
今夜の
御出帆をお
延べ
下さい。