谿底たにそこ)” の例文
そこを、吹きおろす風は七十メートルを越え、伏しても、はるか谿底たにそこへ飛ばされてしまうのだ。——以上が私の、「天母生上の雲湖ハーモ・サムバ・チョウ
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
双眼鏡を肩に掛け、白いしなやかな手を振って、柔かな靴音をさせる紳士は参事官でした。俄然にわかに喇叭らっぱの音が谿底たにそこから起る。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
小石が、がらがら音を立てゝ深い谿底たにそこへ落ちて行くと、岩の間に隱れてゐた雷鳥がすつと風の前を突切つて飛んだ。
山岳美観:02 山岳美観 (旧字旧仮名) / 吉江喬松(著)
段々だら/\りの谿底たにそこに、蹲踞しやがむだやうな寺の建物が見え、其の屋根を見渡しに、ずつと向うの山根やまねちつぽけな田舎家がこぼれたやうにちらばつてゐて、那様あんな土地ところにも人が住むでゐるのかと思はしめる。
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
したしくは妻子とこもれゆきあかりのこの谿底たにそこの日の暮のひえ
風隠集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
理由ゆゑよしもなきわが歩み谿底たにそこは既にくらきに水の音すも
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)