読経どきやう)” の例文
旧字:讀經
しかし中にはかれの不断の読経どきやうやら、寺に来てからの行状やらから押して、普通の僧侶——其処等にざらにあるかゝあを持ち、被布ひふを着
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
やが読経どきやうが始まる、木魚の音が起る、追懐の雑談は無邪気な笑声に交つて、物食ふ音と一緒になつて、哀しくもあり、騒がしくもあり
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
葬列がすつかり寺庭じていに着くと、かたの如く読経どきやうがあつた。そして私は母と一緒に焼香した。それから長い長い悼詞たうじが幾人もの人によつて読まれた。
父の死 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
僕等は読経どきやうの声を聞きながら、やはり僕には昔馴染なじみの鼠小僧ねずみこぞうの墓を見物に行つた。墓の前には今日こんにちでも乞食こじきが三四人集つてゐた。が、そんなことはどうでもい。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
読経どきやうはまだ始まらなかつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
そこのかみさんは、面倒だと思つたかのやうに、一銭をその鉄鉢てつばつの中に入れてやつた。しかしかれは容易にその読経どきやうと祈念とをやめなかつた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
遽然にはかに、二人の僧の声が絶えたので、心づいて眺めた時は、丁度読経どきやうを終つて仏の名をとなへるところ。間も無く住職は珠数ずゝを手にして柱の側を離れた。若僧はだ同じ場処に留つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
最早かれの読経どきやうはかれのための読経ではなかつた。また仏に向つて合掌するかれの手は、かれのための合掌礼拝らいはいではなかつた。新しい力はかれの魂をよみがへらせた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
丁度扇屋では人々が蓮太郎の遺骸なきがら周囲まはりに集つたところ。親切な亭主の計ひで、焼場の方へ送る前に一応亡くなつた人の霊魂たましひとむらひたいといふ。読経どきやうは法福寺の老僧が来て勤めた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)