もうけ)” の例文
不覊独立ふきどくりつ景影けいえいだにも論ずべき場所として学校のもうけあれば、その状、あたかも暗黒の夜に一点の星を見るがごとく、たといめいを取るにらざるも、やや以て方向の大概を知るべし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
故人の書いた料理帳、それは魂祭のためのもうけであるというので、季題にもなっているのであるが、こういう表現はよほど脳漿のうしょうしぼらないと出来ない。元禄の句は無造作むぞうさで自然である。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
渋江の家には浴室のもうけがあったから、湯屋に往くことは禁ぜられても差支さしつかえがなかった。しかし観劇をとどめられるのは、抽斎の苦痛とする所であった。抽斎は隠忍してしばらく忠告に従っていた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
女はその後を追いたりしを、忍びやかにぞ見たりける。駕籠のなかにものこそありけれ。もうけ蒲団ふとん敷重ねしに、摩耶はあらで、その藤色の小袖のみかおり床しく乗せられたり。記念かたみにとて送りけむ。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
両親ふたおやがついて、かねてこれがために、清水みなとに、三保に近く、田子の浦、久能山、江尻はもとより、興津おきつ清見きよみ寺などへ、ぶらりと散歩が出来ようという地を選んだ、宏大な別荘のもうけが有って
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)