蝦蟇ひきがえる)” の例文
眼底がうかがえるほどに膿潰のうかいし去ったものか、もしくは蝦蟇ひきがえるのような、底に一片の執念を潜めたものもあるのではないかと思われた。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
小虎は吃驚びっくりしてふるえ出した。竜次郎はお鉄と知れては、口を利く事が出来なかった。蝦蟇ひきがえるに見込まれた蚊も同然で有った。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
半七 なんだ、なんだ、どいつもこいつもやにを嘗めさせられた蝦蟇ひきがえるのようなつらをするな。ねえ、もし、大和屋の旦那。
勘平の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そしてちょっと鋏に触れるとそれで満足したようにのそのそ向こうへ行って植え込みの八つ手の下でちょうをねらったり、蝦蟇ひきがえるをからかったりしていた。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
山椒魚は手に入れるのが困難だが、反対にいくらでも手に入るもので、しかも、滅多に人の食わないもの、それでいて、相当の珍味を有するものと言えば、日本の蝦蟇ひきがえるだろう。
蝦蟇を食べた話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
二十年の間この山を取り巻いていた呪いの霧が、蛇の鱗のようにがれ落ちて、おおどかな梵音のひびく限りは、谷底に寝ほうけた蝦蟇ひきがえるまで、薄やにの目蓋まぶたをあけながら仏願に喰い入って来ようわ。
道成寺(一幕劇) (新字新仮名) / 郡虎彦(著)
都鳥と片帆の玩具おもちゃつとに挿した形だ、とうっとり見上げる足許あしもとに、蝦蟇ひきがえるが喰附きそうな仙人掌サボテン兀突こつとつとした鉢植に驚くあとから、続いて棕櫚しゅろの軒下にそびえたのは、毛の中から猿が覗きそうでいながら
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青蛙の卵と蝦蟇ひきがえるの舌とを6325
愚直な蝦蟇ひきがえるは触れられるたびにしゃちこ張ってふくれていた。土色の醜いからだが憤懣ふんまんの団塊であるように思われた。
ねずみと猫 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
変な笑いに異状を示しながら、たもとの中から取出したのは大きな蝦蟇ひきがえる。それの片足をつかんでブラげながら、ブランブランと打振り打振り、果てはお綾の懐中ふところに入れようとするのであった。
備前天一坊 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
その鉢巻の下には少し飛び出した眼玉が蝦蟇ひきがえるのように大きく光っていた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)