蝋涙ろうるい)” の例文
たたみかけられて、夫人の鄒氏すうしはわなわなふるえた。蝋涙ろうるいのようなものが頬を白く流れる。——曹操は、唇をかみ、つよい眸をそのおもてきっとすえて
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飾り付けと云っては一隅の三角だなに、西洋の骨董品こっとうひんらしい、きたならしく蝋涙ろうるいのこびり着いた燭台しょくだいと、その他二三の蚤市のみいちからでも買って来たらしいガラクタと
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
何をするのかと思うと、その蝋涙ろうるいを中央の通路のマン中にポタポタと垂らしてシッカリとオッ立てた。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そうだ、あの時、岡本兵部の娘は、石の羅漢の首を後生大切ごしょうだいじに胸に抱えて、蝋涙ろうるいのような涙を流し
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
指の先から水が垂れた。乳首の先から水が垂れた。それはあたかも蝋涙ろうるいのようであった。太股を素走すばしる水のしま! 両足の母指が上を向いた。寒さに耐えている証拠であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
勘五郎の返事を背後うしろに聴いて、平次は穴倉の中に入って行きました。入口の石の上に、したたか蝋涙ろうるいこぼれているだけ、穴倉の中には、埃が一寸ほども積って、人の入った様子などはなかったのです。
蝋涙ろうるいが彼の心の影を浮べて、この部屋のたった一つの装飾の、銀製の蝋燭立てを伝って、音もなく流れて行った。彼の空想が唇のように乾いてしまったころ、嗚咽おえつがかすかに彼の咽喉のどにつまってきた。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
ジ、ジ、ジ……とあかりの蝋涙ろうるいが泣くように消えかかる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
女は蝋涙ろうるいのような涙を袖でふいて
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)