蜿々えんえん)” の例文
星こそあれ、無月荒涼むげつこうりょうのやみよ。——おお、はるかにほのおの列が蜿々えんえんとうごいていく。呂宋兵衛らの祈祷きとうの群れだ、火の行動は人の行動。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
道は蜿々えんえんとしてこの谷を通して北へ貫くのであって、隠れてまた見え出す。その大道の彼方かなたを見ると、真白な山が、峨々ががとして、雪をいただいてそびえている。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
此防火線は尾根通を蜿々えんえんと続いて、鷲ヶ峰から鎌ヶ池の附近を通り、千八百七米の三角点ある隆起までも達している。場合に依ってはこれを利用して楽な登山が出来ようと想う。
美ヶ原 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
灰を被ったような古いクロムウェル街の家並は、荒廃あれきって、且つ蜿々えんえんと長く続いている。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
そこは峠の絶頂で目の下に底知れぬ闇のごとく黒くひろがっている千々岩灘ちぢいわなだが一目に見え、左手にはさながら生ける巨獣の頭のごとく尨大ぼうだいに見える島原の温泉嶽が蜿々えんえんと突き出ている。
それが、二子ふたご山麓の、万場ばんばを発している十石街道こくかいどうであって、その道は、しばの間をくねりくねり蜿々えんえんと高原を這いのぼっていく。そして、やがては十石峠を分水嶺に、上信じょうしんの国境を越えてゆくのだ。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
征討軍が、都を発向したのは、一月二十七日であり、二月上旬には、もう大行軍の列が、東海の駅路を、東へ東へ、蜿々えんえんと、急いでいたはずである。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこに立っていると、またも本庭の余水の蜿々えんえんたる入江につづく「舟入の茶屋」を見ないわけにはゆきません。お角さんは、太閤様お好みの松月亭の茶室に、じっと見入っている。
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
でも、ようやく、三軍が揃って、大宝八幡の社前から、蜿々えんえんと、四陣の兵が、じょしたがって、ゆるぎだしたときは、もう春らしい朝の陽が、大地にこぼれ出していた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蜿々えんえんとして帯をめぐらしたように、一旦はあの谷、あの部落を貫通して、それから向うの峠へ抜けるようについている、ほかに道がない限り、これよりほかへは行けようはないから
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
竹童はこの深山にみょうだなと思いながら、なにごころなくながめまわしてくると、天斧てんぷ石門せきもん蜿々えんえんとながきさく、谷には桟橋さんばし駕籠渡かごわたし、話にきいたしょく桟道さんどうそのままなところなど、すべてはこれ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)