落日らくじつ)” の例文
「いや、敵の腹はどうあるとも、末期まつごに、このゆとりをえたのはありがたい。見おさめの落日らくじつも心しずかに眺められる」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
禅家ぜんけでも儒家じゅかでもきっと根本的にこの問題をつらまえる。いくら自分がえらくても世の中はとうてい意のごとくなるものではない、落日らくじつめぐらす事も、加茂川をさかに流す事も出来ない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
赫爾洪得ハラハンテ廃墟の窻に見とほして落日らくじつ赤し汽車はひた行く
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
湯崗子左の窓に入りくるはかぐろきの子右は落日らくじつ
石工いしくの眼赤きを見ればうら侘し櫟林の秋の落日らくじつ
短歌 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
時しもあれや、落日らくじつ
海潮音 (旧字旧仮名) / 上田敏(著)
いなゝこゑ落日らくじつ
孔雀船 (旧字旧仮名) / 伊良子清白(著)
「下らない」と自分は一口に退しりぞけた。すると今度は兄が黙った。自分はもとより無言であった。海にりつける落日らくじつの光がしだいに薄くなりつつなお名残なごりの熱を薄赤く遠い彼方あなた棚引たなびかしていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
落日らくじつも薄れ、浜の手も野面のづらもいつか暗かった。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
落日らくじつあへ寂寥せきれうに鐘鳴りわたり
邪宗門 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)